第63話 神前誠破壊計画
「西園寺。オメーはなあ……やりすぎなんだよ!」
ランはそう言うとかなめの頭を叩いた。倒れたアンにサラとパーラが駆け寄った。
「大丈夫?痛くない?」
「ひどいな、西園寺大尉は」
ルカに介抱されるアンに差し入れを運んできた男性隊員から嫉妬に満ちた視線が送られていた。誠はこの状況で自分に火の粉がかかるいつものパターンを思い出し、手酌でビールを注ぎ始めた。
「お姉さま。僕も今回はやっぱりかなめお姉さまが悪いと思います!アン、大丈夫そうだな」
「そうですね」
自分の味方になると思っていたかえでとリンが敵に回ったのを見てかなめは表情を曇らせた。かなめはいらだちながら再びラム酒の瓶をあおった。
「よく飲むなあ……少しは味わえよ」
「うるせえ!餓鬼に意見されるほど落ちちゃいねえよ!」
ランから文句を言われているかなめだが、そっと彼女は切り分けたピザを誠に渡した。
「あ、ありがとうございます」
「礼なんて言うなよ。そのうちオメエが暴れだして踏んだりしたらもったいないからあげただけだ」
そう言うかなめの肩にアメリアが手を寄せて頷いていた。その瞳はすばらしい光景に出会った人のように感嘆に満ちたものだった。
「なんだよ!」
「グッジョブ!」
思い切り良く親指を立てるアメリアにかなめはただそのタレ目で不思議そうな視線を送っていた。
「まったく何がグッジョブだよ」
誠は苦笑いを浮かべて注がれたビールを飲み干した。明らかに部隊で根を詰めて絵を描き続けてきた反動か、意識がいつもよりもすばやく立ち去ろうとしているのを感じた。そして誠はそのままふらふらとカウラを見つめる。その目は完全に据わっていた。カウラも少しばかり引き気味に誠を見つめる。ランは誠に哀れみの視線を送っていた。
「あーあ、なんだか顔が赤いわよ。誠ちゃんいつものストレスが出てきたのね」
アメリアはラム酒をラッパ飲みしているかなめを見つめてため息をついた。
「なんだよ、そのため息は。アタシになんか文句あるのか?」
「ここにいる全員が西園寺の飲み方に文句があるんじゃねーのか?」
開き直るかなめにランの一言突き刺さった。かなめは周りに助けを求めるが、いつもは彼女の言うことにはすべてに賛成するかえでもアンの介抱をしながら責める様な視線を送ってきた。
「ああ、いいもんね!私切れちゃったもんね!神前!こいつを飲め!」
そう言うとかなめは手にしたラム酒をビールだけで半分出来上がった誠の半開きの口にねじ込んだ。ばたばたと手を振って抵抗する誠だが、相手は軍用の義体のサイボーグである。次第に抵抗するのを止めて喉を鳴らして酒を飲み始めた。
「あっ、間接キッス!」
突然そう言ったのはアメリアだった。意外な人物からの意外な一言にうろたえたかなめは瓶を誠の口から引き抜いた。そのまま目を回したように誠は倒れこむ。その顔は真っ赤に染まり、瞳は焦点を定めることもできず、ふらふらとうごめいていた。
「馬鹿野郎!神前を殺す気か?ちょっと起こせ!」
蛮行もここまで来るといじめだった。そう思ったランは手にしていたコップを置くと顔色を変えて誠に飛びついた。そしてそのまま口に手を突っ込んで酒を吐かせようとするが、誠は抵抗して口を開こうとしなかった。