第61話 仲間に入れてもらいたい人
「よう!元気か?」
わざとらしく入ってきたのは小さい姐御ことクバルカ・ラン中佐だった。
「なあに?中佐殿もお仲間に入りたいの?隊では下らねえだの、アタシを巻き込むなだの言ってたくせに?」
つっけんどんに答えるアメリアだが、ランはにんまりと笑うと後ろに続く菰田達に合図した。彼らの手には大量のピザが乗っている。さらにビールやワイン。そしていつの間にかやってきた大野が大量の茹でたソーセージを手に現れた。
「なんだ。アタシもそれなりにもてなされたからな。その礼だ」
かなめやカウラの目が輝いた。パーラはすでに一枚のシーフードビザを自分用に確保していた。
「すみませんねえ、中佐殿。で?」
アメリアは相変わらず無愛想にランを見つめた。
「そのー、なんだ。アタシも仲間に入れてくれって言うかなんと言うか……それにだ!さっきアメリアが言ってたような違法行為をアタシが見逃すわけにはいかねーからな。その監視だ!分かったか!」
それが明らかにカウラの隣に自然に座っている自分に向けられているのに気づいた誠は冷や汗をかきながら下を向いて目を背けた。ランに『漢』になるまで恋愛禁止を堅く誓約させられている誠にとってかえでの動画を見る行為は『漢』になるには程遠い行為だと誠も分かっていた。
「その割にはなんだか知らないけどうれしそうですね、クバルカ中佐」
アメリアはそう言ってランににじり寄っていく。
「なんだよ、クラウゼ。気持ちわりーな。アタシもたまには一緒に騒ぎたくなることもあるんだ……だからなー……頼むよ……」
ランはどうやらこの会はただ騒ぐためだけの会だと誤解しているようだった。
「でも、クバルカ中佐が来てくれて助かりました。僕の所に日野少佐が送ってくる動画を公表するなんてアメリアさんは言うんですよ。なんとかしてくださいよ」
誠は助けを求めるようにランにそう言った。
「おい、神前。オメーはその動画で性欲を満たしている訳か……そんな事じゃいつまでたっても『漢』にはなれねーな。当然、そんなものに頼っているうちはいくら『許婚』とは言えかえでとの結婚もアタシは許さねー!神前、いつも言ってるだろ?『漢』になるには心を磨くことだ!そんな性欲に流されるような奴は『漢』じゃねえ!」
誠の一言は完全に藪蛇だった。ランは口を真一文字に結んで誠をにらみつけた。
「そんな……男だったら誰だって見ちゃいますよあの動画……それはもう凄いんですから」
なんとか言い訳をしようとする誠だが、語彙の少ない誠にランを説得する良い言葉など浮かぶわけも無かった。
「まあ、良いじゃないの。ランちゃんもそんなに誠ちゃんを虐めないでよ。誠ちゃんも男の子なんだから。なあにいつでも歓迎ですよ!コップとかは?」
「持って来てますよ!」
すっかり女装が板についた女の子らしいしぐさで落ち着かない誠の隣にコップを並べ始めるのはアンだったがそれを見てさらに一歩下がってしまった。
「神前先輩!僕の酒を飲んでください!」
大声で叫ぶアンだが、彼は数人を敵に回したことに気づいていなかった。