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VSラメル 2


(イラスト:Taremimi先生)


 それを見てサズァンはフッと笑って言う。

「ありがとう、ムツヤ」

 その言葉を最後にサズァンの幻影は消えていった。

「にしても3日か……」

 イタヤは頭をかいてどうしたものかと思う。

「ともかく、急ぎ探知盤を展開して魔人の後を追いましょう」

 アシノが言うと、サワとユモトは探知盤を使い、辺りを見渡す。

「あれ、ここって……」

 ユモトが独り言のように言う。意外にも場所はすぐに分かった。魔人は城に引き返していたのだ。

「魔人が何を考えているか分かりませんが、どこかへ行く前に叩きたいですね」

 アシノがそう話すと、イタヤも「そうですね」と同調した。

「ムツヤ、体はどうだ? 正直に答えろ」

「実は、まだちょっと調子がよくないでず!!」

「そうか……。あの魔人の対策も考えなければならない。一旦休みを取るか」

 一行は焚き火を囲んで話を始める。

「まずだ、ムツヤ、城の中で何があった? もう一度説明しろ」

 アシノは尋ねる。すると「えーっと」と言いながら頭をかいてムツヤは言った。

「目が覚めたら縛られてて、カバンを開けろって言われました」

 何かを隠してソワソワしているムツヤにモモは聞く。

「それ以外には? 何かありませんでしたか?」

「え、いや、別に……」

「本当に、何もありませんでしたか?」

 真顔でジッと見つめるので、思わずムツヤは目を逸らした。

「いやー……、なにも……」

「ムツヤ、正直に話せ。何か魔人の能力の手がかりになるかもしれない」

 アシノに言われてしまい、ムツヤは正直に話す。

「えっと、その、キス? ってやつをされました」

 ムツヤの発言に全員が固まる。モモはワナワナと震えた。

「魔人許すまじ……」

「恋する乙女は怖いわねー」

 モモに聞こえないようにこっそりルーが言う。

「それで、お前ですら操られたってワケか」

 うーんとアシノが考えると、ルーも頬杖を付いて言った。

「城の人達も操られていたし、魅了の魔法が使えるみたいね」

「その上あの強さ、どうやって倒すかだな」

 イタヤも珍しく神妙な顔をしている。皆、答えが出ないまま時間だけが過ぎていく。

「あーもう、答えも出ないし、とりあえずパーッと何か食べて休みましょう!」

 ルーの意見は突拍子もないモノのように聞こえるが、確かに今、考えていても何も答えは出なそうだった。

 料理が出来るまでの間、アシノは赤い玉を取り出してギルスに連絡を取る。

「なるほど、事情は分かったよ。道具の監視は俺と警邏でやるから、そっちは戦いと休息に専念してくれ」

「すまないな」

 話し終えると、お料理組、見回りに行ったウリハ。料理が出来るまで寝ると言ったルーを除く、アシノとイタヤ、ムツヤが残った。

「ちょうど良い機会だ、ムツヤくんの話を聞かせてくれよ」

「話でずか?」

「そうだな……、裏ダンジョンの事や、裏の道具の事をね」

 イタヤに質問をされてムツヤは答える。

「裏ダンジョン……。には、子供の頃から行ってまじだ!」

「良く無事で居たね」

「はい! 最初はでっかいカニにも勝てませんでじだけど、修行したら勝てるようになって」

 裏ダンジョンで鍛えた話をイタヤは驚いたり笑ったりして聞いてくれた。

「そうだ、魔人にも勝てるような裏の道具は無いのかい?」

「ぶつけるとモンスターが消える石ならありまずけど……」

 それを聞いてアシノは椅子から滑り落ちる。

「ムツヤ!!! そんなモンがあるなら早く言え!!!」

「えっ、あっ、ずみまぜんでじだ!!」

 アシノは額を抑えて苦い顔をした。

「それ、魔人にも効くなら使えるかもしれないね」

「魔人を倒すか、イチかバチかですが、カバンを取り戻してその石が効けば……」

 モンスターが消える石が魔人にも効くのか分からないが、一つでも勝利への選択肢が増えただけ良かったと思うしか無い。




 用意された食事を「うまい! うまい!」と言って食べると、皆で休憩を取ることにした。

 アシノは心配であったが、ギルスからの連絡もなく、魔人ラメルは依然として城に居たままだ。

 城でもラメルとミシロがテーブルの前に座っていた。城の魅了した人間を使って食事を作らせる。

 ミシロは目の前に次々と運ばれる豪華な料理を見つめた。

「食べよう」

 ラメルが言うと、ミシロがご馳走とラメルを交互に見ている。

「食べなよ」

「い、良いんですか?」

 先に食べ始めるラメルはその言葉を無視していた。ミシロは恐る恐るパンを掴んで食べた。

 涙が出てきた、数年ぶりに感じる味というものに。

「うっ、ううううぅぅぅ……」

「どうして泣くの?」

 不思議そうな、呆れたような感じでラメルは問う。

「わかりません、わかりませんけど……」

「そう」

 ミシロは夢中でスープも肉も野菜も、とにかく食べた。今までの分を取り戻すかのように。

 食事を終えて、ラメルは寝間着に着替えると、ベッドに横になる。

 ミシロも城の者が持ってきた服に着替えていた。

「寝ないの?」

 聞かれて、どうしようか考えたが、ラメルの隣にもぞもぞと入っていった。

「隣とは言っていない」

 そう言われて赤面する。恥ずかしさと申し訳無さが混じって「申し訳ありません」と謝ることしか出来ない。

「まぁいいよ」

 ベッドから出ようか迷ったが、そのまま居ることにした。

 しばらく時間が経って、ミシロは質問をする。

「ラメル様は……、どうして私を助けてくれたのですか?」

「助けたわけじゃないよ、キミには世界をメチャクチャにする才能がありそうだからかな」

 慰めの言葉を期待していた訳では無いが、少し心がズキッとする。だが、それよりもラメルの言った言葉が気になった。

「世界をメチャクチャにする……、ですか?」

「そうだよ」

「ラメル様は、どうして世界をメチャクチャにしたいんですか?」

「どうしてだろうね。やりたいからやっているの。私からしたら人間や亜人のほうが不思議だよ」

 私達が不思議と言われてどういう事かとミシロは思う。

「すぐ死ぬし弱いし、なのに子孫を作ろうとする。そうかと思えば殺し合いもする。意味わかんない」

 答えに行き詰まった。魔人から言われてしまえばその通りだ。

「本能ってものなんですかね」

「だったら私のも本能。魔人としての本能だよ」




 お互いに動きがないまま次の日になった。ムツヤ達は出撃の準備を整える。

「作戦の最終確認をします。魔人と戦うのはムツヤとイタヤさん達。私たちは魔人がカバンを持っていなければカバンの回収。持っていたらムツヤの援護だ」

 アシノは全員が返事をしたのを見届けて、外に出た。どんよりとした曇天が不安な気持ちを煽る。

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