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第五話『オレの感覚は間違えていない』1/3

◆【廃墟ビル】
ここか……。

先程まであの女が居たラブホエリアの徘徊が終わり、街を眺めてから現れたのがここ。
先程買い物した袋に入っていた物。梱包された商品と札束。それとこの名刺。
『リレイズ北村 アブロンビル地下3F 店長 北村憂』

うれい……ゆう、うれう……んー、普通の読みならゆうか。
憂という女があの女なのか、もしくは知り合いなのかと考えるが多分本人だろう。
憂、なんてあまり良くない漢字を使っている時点で変な親が付けた変わった名前か、もしくは偽名。
キャバクラみたいな原子名とも意味合いが違うことも考えりゃ、まあ9割方偽名だろうな。
とはいえ手がかりがこれしかない以上、とりあえず来てみたが……。こりゃ人いねーだろ。

施錠こそされていないものの地下へと続く階段に明かりはなく、底の見えない暗闇の塊。
普通の店なら、絶対にない。この時点で回れ右で家に帰る。が。

正明「……」
◆【暗闇】
ここがもし賭場だと言うのなら、妙な信憑性が増す。
実は過去に何度か裏で行われているカジノやパチスロが置いてある店に行ったことはある。

そのどれもが裏とは思えないぐらい明るい装飾を付け街中で堂々としているもので、たまにマンションやアパートの一室なんてものもあった。
色々なケースの裏ギャンブルがあるが、こういう場所はきっと暴力団が絡んでいないケースか、または金額がかなり特殊な場所なのか。

正明「っは」
もしも突然何かに襲われても良いように十秒間目を閉じ、目を慣らしてから携帯のライトを照らす。
【暗闇に光】

ドクン。

アンダーグラウンド。
それを地下と直訳するか、裏世界と呼ぶのか。はは。スケスケじゃねーんだから。
自嘲しながらも笑顔が引きつっている自分の小者っぷりに苛ついた。
階段数を無駄に数えて55。ちょうど3階ぐらいの深さになると横にうっすらと光が灯った。

正明「……ッ」
行くぞ。
自分自身に言い聞かせ、ドアの手すりを掴む。

正明「……ッ!」
開かない。押しても動かず、引いてもだめ。
ふ。なんだそりゃ。
肩透かしを食らったが安堵したのが自分でもわかった。

正明「ボケえ! 開かんかい!」
調子に乗っていつものノリでドアを叩くと、呆気なく横にスライドした。
ぅ……ッ!
突然差し込まれた大量の光。
考えることすら許されず、次に目に飛び込んできた景色は……。

正明「……あ?」
△【イベントCG011・ポーカーテーブルに座る死神】…差分:天井見ている
椅子に……座っている、のか?
長いウェーブの髪を揺らしながら天井を見上げる一人の女性。

??「ん……」
正明「あーん?」
??「……」
正明「……」
??「あーーーーーーーー!」
??「あの! 私! さっき一緒に買物した時の! えっと、小銭を拾っていた! えぅ、いや。それはダメで、えっと、」
正明「落ち着け!」
??「……」
??「い、いらしゃい……ませー」
正明「……」

ウソだろ。これマジで店なのかよ。
そうは言うもののこいつはシャツにベストと従業員の正装で、一台だけの大きな緑のカジノテーブルだ。
??「えっと、あの……お一人様で……」
??「こ、こちらに、ど、どうぞ……はい。是非、どうぞ」
正明「……」
言われた通りにカジノテーブルに座ると、さっき買った袋の中身を出した。
??「あ。さっきの。嬉しー。わざわざ持ってきてくれたんだ」
??「ち、違う。ゴホン。お、お客様、ありがとうございます」
よくわからないが接客をしたことないのに必死に接客しようと頑張っているようだ。

正明「ビールいくら?」
??「ご、500円!」
正明「……じゃ、それで」
??「はい! 只今お持ちします!」
正明「……」
ダッシュでカウンターの裏に走ると、すぐにダッシュで戻ってきた。
??「あの! 今! 業者呼んでサーバ設置してもらうんで! ちょっと、ちょっとだけ待ってもらって」
正明「待てるかボケぇ!」
??「だよね! だよね! こんな店で待てないよね! えと、えーっと、それなら瓶ビールしか……あ! 美味しいワインがあるよ!」
正明「瓶ビールで」
??「はい~!」
それで次に缶切りが見つからないとかグダグダになったがようやく一息。

正明「……ふう」
ビールを口にしたせいか、今日の疲れが一気に出た。
色々あった一日だがこれからも疲れるだろうなと確信した。
正明「とりあえず中身確認しろ」
??「あ、うん! えっと……うんうん! これ! 私が選んだの!」
??「あ。お金ね。あーーー! 名刺! そっかー! こっちの名刺見たからここから入ったんだね!」
??「あのね。これ実は間違えてて。えっと、住所は合っているんだけど地図から来るとさっきの怪しいところから入るでしょ。ちゃーんと表玄関もあるんだよ」
正明「……?」
「お金ね」

……500万を、お金ね、で終わり?

心臓が鳴った。
あ、これ――オレは間違えてない。

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