第四話『冷やされているのは化粧水』2/2
△『イベントCG010・ブランド袋の中身』
袋の中身をひっくり返してみても、入っているのは商品。ラッピングされた帽子と札束と名刺しか落ちてこない。
正明「あー、ってなるとやっぱ賭場行きゃよかったな。賭けれりゃすぐ渋沢様増やせるのによ」
そうだよ。麻雀かパチンコ屋か、賭場さえありゃすぐにこうやって渋沢の塊を……。
正明「……」
正明「……?」
幻聴か? 目の前にあるのは……
ふふふ。幻聴は耳だよ。おっちゃめー。
正明「黙れよ正明!!!」
がばっ、と机の上に不自然に置かれた"それ"を眺める。
正明「……」
渋沢様の、束。一塊帯されたそれは、パっと見で1,000渋沢はある。
正明「……」
なんだ、これは……夢、なのか?
帯を外すと、何かに取り憑かれたように、1枚1枚テーブルの上を数えて……。
正明「……ッ!」
ダッシュで玄関に戻ると、チェーンをかけ、窓も全て閉まっていることを確認して戻ってきた。
正明「……」
よくわからないが、なんとなく携帯電話を机の上に置いた。
着信履歴に一瞬息を飲んだが――ジャンか。
オレには昔、四光院斬という友達がいた。
その女友達はすぐ暴力に頼るハゲで友達もおらず、学園中の人気者で竹原正明が唯一お情けで友達をしてやって……
正明「待て待て待て待て」
スケスケみたいなことやってんじゃねーよ。自分の頭をポカポカ殴り冷静さを取り戻す。
着信は他にはない。なので、続きを行う。
それから手元にあった札束を数えた。
まず、わかったのは透かしが入っていて、もちろん日本銀行の番号も割り振られている。
少なくともオレの目からは偽物だと判断はできない代物。
そしてこれは重要なのだが、1,000万円あると自信満々に断言した札束は500枚しかなかった。
正明「てへりこ」
疲労と、空腹と、あと金。思考力が狂う要素は揃っている。
で、なんなんだこの金は?
落ち着け。金なんかに動揺させられるな。
一つずつ。冷静に。一つずつ整理しよう。
まずは空腹をなんとかしないといけない。思考力の低下の原因はまず空腹の要素が大きい。
家の冷蔵庫を開ける。
△【イベントCG015・冷やされたのは化粧水】
そこには化粧水が冷やされていた。
正明「もおおおおおおおおおおおお!!!」
己の未熟さに怒り全力でドアを閉じた!
正明「次!」
空腹をシカトして携帯に電話すると、ヤツは4コール目で必ず取る。
声「――我は夜の虚空也」
正明「今大丈夫か?」
正明「そういやこの前焼肉美味しかったよな」
恭介「む……別の世界軸の話であろう」
正明「てめえふざけんなよ。証拠写真と領収書しっかりあるんだよ」
恭介「冗談だ人間の子よ。今日はいささか邪気が濃いな」
正明「今から散歩付き合ってくれ」
恭介「否。我はゲートが閉じるまではそちらの世界に入れん」
バイト中か……。
恭介「今宵は満月。導かれたとして、それは厄災の……」
ピッ。
正明「使えないクズめ」
ってなると寝るか……もしくは。
一人で、巣に入るか。
正明「……」
正体のわからない相手の巣に500万なんて大金もって行く……わかる。そんなのただのアホだ。
じゃあ寝る? 得体の知れない金を抱えたまま?
思考力云々は置いといて、どちらの選択肢をとってもリスクはある。
それなら――ここは行くしかねえだろ。
つっても当たり前だが拳銃やスタンガンなんて持っていない。あると言えるのはせいぜい子供用の防犯ベル。
正明「……」
それならせめて、ランニングシューズか。
ダサいし靴に合った服がないから履きたくないが……これなら相手が乗り物以外なら確実に振り切れる。
初手でしくじらなければ、だが。
正明「うし」
もし、このまま寝れば500渋沢が手に入ったかもしれない。
仮に罠だとしても、うまく捌けたかもしれない。
金が降ってこねえかな、って口では言うが本心ではない。そういう思考のカスは大嫌いだ。
待つんじゃない。恵まれるんじゃない。
△【イベントCG001・襟を立てる竹原正明】
奪うんだ。
ドアを開ける。
そこはもう人が眠る夜の街。
いつもの夜に、一際目立つ白いコートを纏って足を進めた。