第三話『N=78』4/4
結論から言うと、洋服を一緒に選んだ後、帽子と靴も買ってただのショッピングになった。
??「あー、もうすごーい! このカーブのロゴかわいー。なんか鎌みたい! あー、もう楽しみだなー」
??「でもでもごめんね、ごめんね、選んでもらった上に荷物まで持ってくれて。本当にもう感謝でいっぱいだよ」
正明「まあな。知り合いにオレの事を最上級ホストと中傷する子供もいるぐらいだからな」
……わからん。
キャッチしたカモにキャッチされるか?
普通は違う。じゃあこいつは普通じゃない? いや、そうかもしれないがこいつに理がない。
でも単純に洋服買えて滅茶苦茶喜んでいる。演技? いや……なんだ?
多分、普通に店や素性の質問をしても空の受け答えで終わっていただろう。
ならば意表をついて……と思ったのだが。
こんな事態すら想定した? んなわけねえよ。……ってなると考えすぎ?
??「私すっごく意表つかれちゃった」
頭の中で考えていたことと類似して一瞬心臓が跳ねる。
??「今日ね、私、誕生日なの」
??「うっそー」
やべえ、殴りたい。
つーか、結局マジでこいつのショッピングに付き合っただけでオレにはなんの得もなく……こっから賭場に付き合うとしてもせめて飯ぐらいは奢らせたい。
正明「なあ、どっか入んねーか?」
??「え?」
正明「……っと」
見渡せばそこはホテル街で、変な意味に捉えかねない。
斬「……」
正明「……」
斬「誰?」
正明「え、あの、えーと、その、あー……別にあのー」
斬「……貢がせた」
正明「いや、あの! バカ! バカバカバカ! オレがそんな非道なことするわけないだろ!」
正明「オレは朝起きたら花に水あげてラジオ体操してご近所さんに挨拶とかするかもしれないヤツってわかるだろ!」
正明「そんな健気に生きてるオレが……」
??「あはー。ここなんか良さそう」
そうやって腕を引くその先。
『ホテル・ジュテーム』
??「お店よりも今日はこっち行こうか。ね?」
斬「……」
正明「……」
なんかこれ、絶対変な勘違いしてるよね。
斬「ホスト……!」
正明「ちゃうわボケぇ!!!」
で、経験上頭に血が上ると話聞かないで斬ってくるヤツなのですよ。
つまり、ここでの選択肢は――
●【選択肢008:ホストのアフター】
A.この女を盾にして逃げる
B.オレじゃなくてジャンが悪いことにする
●A.この女を盾にして逃げる
正明「助かる」
??「え? はあ……えっと、何がですか?」
いつもの斬の溜め息が夜気に滲むと、静かに手が柄へとかかる。
斬「芸がない。ポケ〇ンでも技は4つは覚えられるのに」
正明「うるせえ! オレは個体値高いんだよ!」
弾かれたように二つの影が夜の街に消えた。
●B.オレじゃなくてジャンが悪いことにする
正明「おーおー! 元友達のクラスメイトさん! お前こんな時間に何やってんの?」
正明「学園生がホテル街を深夜徘徊だあ!? しかも手に持ってるのなに!? 凶器! カチコミでも行く気かよ! うわー、怖い!」
正明「つーかなーにがM=78だよ。ウルトラの故郷じゃねーか! てめえの無知でオレが恥かいたんですけど」
正明「ハーゲ」
音もなく、刀を抜いた。
正明「いや、あの、違う。ハゲじゃない。うん。今のは、なし」
斬「ボクにも非が合ったと思う。謝罪も兼ねて、マサには謝ろうと思っていた」
斬「でもとりあえず、足を一本もらう」
正明「バカヤロー―――――!」