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第三話『N=78』1/4

◆【駅】
朝。久しぶりに電車に乗り込んだ。

「でね、かずきがお前が言うなら別れてもいんだよっていうの? バカじゃねーの! こっちのセリフだっつーの」
「そういえばこの間駅前にできたつけ麺屋もう潰れたってさ」
「いきなり仕様変更って……そんな……」

なんとなく、電車に良いイメージがない。
人じゃなく奴隷運んでいるような……スケスケみてーだなとは思うが満員電車の時なんかそうとしか思えない。ま、きっとただ単純に他人と距離が近いのがうざいのか……。

普段徒歩で通う学園にわざわざ電車に乗り込むと、足を止めた。
『館道学院前』
正明「……」
電車から降りて……降りたものの、その場に立ち止まる。

どうする?
学園に行って、授業を受ける?
学園は必ず卒業すること。
保護者であるグッチー先輩と他にもいくつか約束事はあるが、これが一番面倒くさい。じゃなきゃとっくにパチンコ屋か雀荘に住民票を移している。

正明「……」
そのパチンコ屋と雀荘に入れないんじゃねーか。
ってなると残るは裏カジノ――だが、この辺の場所はロクさんのシマらしいのでロクさん、あるいはグッチー先輩がダメっつったらオレは絶対入れない。
ってことは個人マンションで麻雀やっているヤツか……それも六道組の息のかかったヤツか、素人なら低レートだろう。

――何回目だよこの問答!
いい加減自分の女々しさに苛立ってきた。


家賃6体。食費2体。日用品2体。衣服5体。電気水道ガス携帯で2体。
で、今月回収した渋沢様が22体。
こうなると秋物の洋服買ったのが痛手だが……それ以上にあの焼肉……ッ!

◆【学園】
眼鏡教師「えー、今日は13日だから出席番号13番。次の問題答えなさい」
贅沢しなければ12体……いや、これを11。11だ。11体までまず抑えるか。
引っ越しして家賃下げるのも有りだが……引っ越し費用が結構かかる。敷金礼金と引っ越し代で仮に12体として、家賃が1体下がったとして回収に一年……いまいち。

眼鏡教師「出席番号13番。答えなさい」
飯はしばらくもやしと豚肉で過ごすか。それと自販機の小銭を多く見回って……。
斬「……」
ちょんちょん、と正明の肩をつつくが反応なし。

……つーかなにか? オレは主婦か? なんでこんな苦しい思いをしないといけないんだ?
オレは清く正しく明るく生きている正明なのに……ほーん、これが正直者がバカを見るってヤツね。
眼鏡教師「おい13番! こらこの竹原……竹原っ!? あ、14番で……」

ガタン! とわざと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

正明「……」
とりあえずムカついたから立ち上がっただけだが、クラスメイトからの視線はない。
眼鏡教師「あー、いやいやいやあのね。立たなくていいよー。14番。うん。14番だから」
正明「なんだそりゃ。てめえオレがこの問題わからないと思ってんのかよ?」
眼鏡教師「あー、いやいやいやうんー。あのー、ね。お互い関わりたくないというか、ね」
正明「……」
黒板を見る。そこには数字と英語と分数っぽいアラビア語のような式が羅列されていた。
へー。高学歴じゃん。

答えどころか問題が読めなかった。
ちょんちょん、と促される隣を見ると、ノート一ページを使って大きく、

『N=78』

ふ。
さすが我がパートナー。つーか根っこは真面目だからなこいつ。

正明「ふむふむ、なるほど。なるほど。で、ここで掛けて……あー、はいはい。わかった」
正明「ズバリ――N=78だ」
眼鏡教師「違います」
正明「……」
斬「……」

クラスメイト「プッ……クスクス」
クラスメイト「フフフ……フフフ……」
正明「……」

これが四光院斬と友達だった最後の記憶となった――

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