第九話『未熟なクソガキは理想像』3/4
斬「……」
正明「あー、悪りぃなジャン。ちょっと戸惑ってると思うけど、オレ本気ね」
木葉「…………」
正明「拷問して殺すんだろ? このオレを」
正明「だったら適当に犯して楽しんで、刑務所に数年入った方がお得だろ?」
半信半疑でこちらの様子を伺う木葉にわかりやすく教えるため、ポケットからサバイバルナイフを取り出す。
木葉「…………っ」
目の前の女の表情がみるみる青ざめていくのが分かる。
こいつは今まで弱者の気持が分かんないからこういう態度を取れたんだろうな。
木葉「や、やれるもんなら……」
パン!
正明「あ、声出させないから」
ビンタを一発入れた後、俺はすぐに力づくで女の口元を塞ぐ。
木葉「……!」
懇願する。今頃、立場が分かったのだろう。
正明「オレってクズとかゴミとか最低とか言われてるけど、ちょっとだけそういう側面あるかも」
正明「女と子どもと老人は容赦なく殴るっつったよな?」
正明「今回は殺さないとオレが殺されるみたいだから、これって正当防衛じゃん?」
木葉「……ッ」
正明「ジャン。オレの年齢でこういうのやったら何年ぐらいで出てこれるのよ」
斬「強姦した上で殺人となると、かなり重い刑になると思う。終わったらすぐに自首するかちゃんと隠しておいた方がいい」
斬「あと間違えてもお金は取らないこと。終身刑か死刑も有り得る」
木葉「……ぁ」
正明「オッケー。アドバイスさんきゅー」
正明「っつーことで、交渉失敗したからジャンは帰って良いよ」
斬「……マサ」
正明「オレがやるっつったら引かないのはジャンが一番知ってんだろ?」
斬「…………」
木葉「………ん、んん! んんんんんん!」
正明「うるせえよ」
口元にあてた指を強く、強く、握る。頬肉の上から歯並びが奇麗に整っているのが感じられる。
オレが男で、生殺与奪を握っていることを再認識させる。
正明「誰が喋って良いって言った?」
木葉「……ん、……ひぃ」
もっとも、既に恐怖の感情しか抱いていないこの女に対し、そこまでやる必要性は疑問だが。
斬「……」
何かを言おうと一歩近づいたが、結局斬は顔を伏せた。
木葉「んんん……!」
暴れる木葉を力で抑えつける。
斬「再確認するけどボクはこの件とは無関係だよ」
正明「ああ。誘拐が犯罪ってのならジャンは誘拐に加担してねーし当然だろ」
正明「強姦と殺人もオレ一人でできっから、もういいや」
木葉「………!」
オレの手の中にある小さい身体が小刻みに震える。
初めて、そして唐突に訪れる死の現実に直面すれば、人間は誰でもこうなる。
正明「って小便漏らしてんじゃんコイツ。ひひひ、プルプル泣いてるし本当に猿みたいなヤツだったよな」
斬「強姦殺人は刑が重くなるからら殺して隠すだけがいい。あと刃物を使うと刑が重くなる。もう一つ言うと身代金とかも要求しないほうがいい」
正明「おっけおっけ。んじゃーあんま痛めつけないでやっか」
木葉「……ぅ…う…」
正明「じゃあな、ジャン。短い間だったけど楽しかったよ」
斬「ああ。恭介とモチにも伝えておく」
短くそれだけ言い切ると、ジャンは俺から背を向けて去っていった。
木葉「や、やめなさい……あんた、誰に向かってやっているかわかって……むぐッ!」
正明「おっと。緩めちゃったか」
再度指に力を入れ直す。
感情の無い目で、獲物を覗く。
正明「オレも人のこと言えないけどさ、今更助かろうなんてクズ過ぎじゃね?」
木葉「…………ん、ん!」
オレの言っていることを数秒遅れて理解して必死に頷く。
正明「まさか、今頃謝れば許してもらえるとでも思ってんの?」
木葉「……っ!」
その言葉はそのまま木葉の胸に届き、静止した状態でただ目から涙がこぼれた。
正明「だってお前自分都合で相手虐めるじゃん? あ、別にいいのよ。オッケーオッケー。オレ関係ねーし、それは全然問題ねーのよ」
正明「オレも同じクズだから」
木葉「…………ッ」
正明「ま。その末路がこれよ」
クズの末路は――きっと、こうなるのだろう。
それは多分、良い事なんだと思う。
木葉「……ぅ、……うぅ……っ!」
正明「つーか、てめえはオレにもそれやろうとしたしな。ならしょうがねえだろ。オレだって本心じゃ小さい女の子切り刻んだりしたくねーのよ。良心超痛いし」
木葉「……ッ!」
碧色の目は、まだ光がある。
正明(ふーん)
正明「そうだな……謝り方によってはもしかしたら気が変わるかもな」
木葉「……………」
今のオレの言葉は耳ではなく、直接彼女の心に届く人形だ。
添えているだけの手をゆっくりと話す。
木葉「ふざけるな底辺ホストが」
正明「……」
言いながらも、恐怖で大粒の涙が頬を伝う。
小便を漏らし、涙が溢れ、声を震わせ。
これから自分の身に起こる悲劇を知り、それに恐怖を抱きそれでも屈服しない姿勢は正直にかっこいいと思った。
腕を振り上げる。力で黙らせようとするが、そんな程度ではこいつは関心しないだろう。
木葉「ひッ……!」
眼球のすぐ横に、ナイフの先端を押し当てる。
正明「お前気に入らない奴片っ端から権力で潰してきたよな?」
刃の先端が、肉に少し食い込む。
木葉「ぁ……」
正明「別に謝らなくてもいいんだぜ? オレは木葉と同じクズじゃねーから」
正明「オレの方がクズだからな」
木葉「……」
だから、止める気はない。
正明「謝罪するならやめる。謝罪がないなら許さない」
正明「オレは――オレを煽るヤツを絶対に許さない」
木葉「ぁ……」
絶望が染みるほどに既に青ざめた顔は白くなる。
正明「オレはほら、心きれいだから良心痛むけどさ。てめえは平然と弱者潰してきてよな。あ、攻めてないよ。楽しいよな。わかるわかる」
木葉「う……うぅ……!!」
正明「ぐじぐじ泣いてんじゃねーよクソガキ。てめえもずっとやってただろうが」
木葉「も……」
木葉「もう、やらない……!」
絞り出すように吐き出す。
正明「ウソつけ。昨日もやったじゃん」
木葉「もうやらない!! 二度とやらないから!!」
正明「この前の噂聞いたぜ? 部活動頑張っている女の子が少し陰口しただけで土下座だろ」
正明「その前は部活頑張ってる野球部の腕へし折ろうとしたとか。うわー。ひどいなー。よくそんなことできるよな」
木葉「もうやらないって言ってるでしょっ!」
正明「おい」
首を掴んでる腕に、力を入れる。
正明「バカかてめえ? オレは謝り方によっては……って、言ってんだけど?」
正明「とりあえず、今から両目を刳り貫く。それから――ま、そっからは正直考えてねーや」
木葉「ッ――!」
正明「最後だ――ごめんなさい、と謝罪するか?」
木葉「……」
カタカタと歯をぶつけながら、青ざめた顔で。
最後の最後に、
少女は――言った。
木葉「……やれ」
え――?
△『イベントCG008・拘束された木葉』(差分)
木葉「あたしは――」
木葉「あたしは――頭だけは下げないわ……ッ!」
振り絞るような掠れた声で。
木葉「あんたみたいな底辺とは、背負っている物が違うのよ――!」
木葉「あたしは! 風雪木葉よ!!!」
正明「……ッ」
うわ、こいつ――。
こいつ、かっこいい!
正明「吠えたな――風雪木葉!」
木葉「……ッ!」
腕を振りかぶり――
正明「……チッ」
――ゆっくりと降ろした。
正明「……はー」
ビビってんじゃん。
泣きまくって小便垂らして歯ぎしり鳴らして汚ねえ……あー、すげえ。
ビビりまくって、ハッタリ全部効いてて、それでも折れねえか。
ッハ。
正明「負けた。降参」
木葉「へ?」