第八話『イケメン税は高額納税者』
◆【繁華街】
正明(234番……いや、カド2の235番か……)
ノートにデータを記載しながらパチンコ屋を出たところだ。
??「出合うたな――この俺と――」
こんなわけのわからない言い回しは地球上に一人しかいない。
正明「おー。スケスケ。久しぶりー」
恭介「ククク、さしずめ錬金術師の魔法の書物――か」
正明「フフフ、まあそんなもんだろう――な」
言葉を合わせる。こいつは……なんだろう。存在自体が面白いズルいヤツだ。
恭介「彼の名は竹原正明。現代に生きる錬金術を営み、人間界で言う貧困層に該当する」
正明「貧困層舐めるなよ!?」
恭介「現代の侍よりの言伝だ。連絡を取らないのはよくないと思う、と」
正明「ジャンうるせえんだよ。麻雀の誘いとかじゃなくて学園来いとかよ? あいつ根っから真面目だからな」
恭介「存じている。あれの性質も、貴様に好意を向けていることも、な」
正明「やっぱモテる男ってツラいなー。顔か? あー、やっぱ顔だなあ。くそー、イケメン税高いぜ」
恭介「今度会ったら逃げられないように足を一本頂くと」
イケメン税高すぎじゃね?
恭介「それと――だ。この領域、組織の討伐に力を入れている」
えーと、組織の討伐……組織の討伐……っと。
正明「警察が摘発してんのか」
恭介「左様」
こいつ標準語喋れない病気だからなー。誰か通訳いねーかな。
正明「なースケスケ。たまにはほら。久しぶりに会ったし、人集めて麻雀でも……」
??「あの!」
女性の甲高い声。振り返る。
??「えっと、お、お久しぶり……です、ね?」
特徴の塊だった。
170cmを超える長身に、首から下の肌を全て隠す包帯。薬物を疑われる痩せこけた姿に長髪のウェーブの髪。
いくら人の名前を覚えるのが苦手なオレでもはっきりと初対面だと断定できる。
まあ考えるまでもなく、スケスケの友達か。こういうメンヘラってよくこういう友達作れるよな。どこに居るんだよ。
恭介「汝、名は?」
??「え、今5時ですね」
恭介「……」
??「……?」
え、なにこいつら。超面白い。
??「あ、違います! えっと、17時! うん、17時です!」
恭介「……」
ふらりと、無言で恭介は背を向けた。
恭介「ゲートが開く刻故に」
これは知っている。そろそろバイトの時間だから帰るね、っていう意味だ。
??「え、あの、あ……」
恭介「錬金術師の知人――か」
正明「いや知らねーよこんなの」
??「えっと、あの……うふふ。初対面からこんなの扱いってなんかすっごく仲良しさんみたいですね。もう私達に壁なんかないなー、みたいな」
よくわからないがすごくポジティブらしい。つーか初対面なんだ。
??「はあ。笑顔疲れた。どうせ私の笑顔なんてキモいだけだよな。死んだ方がいいよね……」
正明「よくわかんねーけどちょっとは頑張れよ!」
もう一度こちらを改めて向くと、ウェーブの髪の女は小さく頷いてから喋った。
??「そこの君だと思うんだけど……ちょっといいかな」
なんで初対面なのにオレのことを? っていうのは前にも何回かあった。
多分雑誌のストリートスナップとかで見たか……うーん、多分それだろ。流石にこんなヒロポン使いそうな強キャラと麻雀なんかした覚えねーからな。
??「えっと、あの、この間……ほら、覚えてないかな……」
はいはいはいはい。パターンAですね!
正明「あー、いるいる。私達知り合いでしたよねみたいに言うやつ」
正明「こっちが言葉合わせるの待ってるんだろ。残念。なんかエピソードあるなら言ってみろよカス」
??「この間自動販売機の下で小銭を……」
正明「わかったわかったわかった! オレの知り合いだな! もう二度とその話しないでくださいお願いします!」
ニヤニヤとこちらを伺うスケスケがムカつく。
正明「てめえは早くバイト行けカス」
恭介「そう急かすな。誘いの鳴き声はまだ届かぬ」
訳すると携帯電話鳴ってないからまだ大丈夫だよ、という意味です。つーかマジで翻訳超面倒なんですけど。
??「おい!」
そしてまたまた声をかけられたのは、
黒服「竹原正明だな」
正明「……」
あー、うん。お前らはなんとなく知ってる。
??「正明君って言うんだ。すごいね。お友達の顔が広いね」
正明「そうだ。スケスケ次いつ暇?」
恭介「百四十四刻」
あー144時間……まあ一週間ぐらいか。
黒服「……」
正明「……」
??「えと、えー……みんな集まってさ。えっと、その……この後暇だよね。うん、暇だよね。それなら私提案があるんだけど……」
ふっ。
逃げたほうがいいんだよね。オッケー。