第七話『カニタコ魚群は信じるな!』2/2
現場には意外にも野次馬はいない。
恐らく関わりたくないのか、それともこの間の黒服が掃除したのか。
状況は一人の女生徒が土下座しているところだった。
その相手は――。
△【イベントCG007・やりたい放題風雪木葉】
あー、こいつか。
木葉「許すわけないでしょ。あんたバカなの?」
躾のなっていない金髪小学生。
なんで偉そうなんだと思う反面、あまり興味はなかった。
斬「何をしているんだい?」
ジャンはこういうの首突っ込むなよなめんどくせえ。
ジャンの声に視線を向けると不敵に微笑む。
木葉「あんた誰よ?」
斬「ボクは四光院斬。四光院が名字で、名前が斬」
木葉「……なかなか几帳面なヤツね」
ペコリと頭を下げる。本当に几帳面なヤツだった。
斬「突然横からすまない。それで、彼女は謝っているように見える。状況はよくわからないがこれ以上はよくないと思う」
木葉「ふーん。知っているわ。こういうの日本語でお節介って言うのよね」
ここに伏しているのがモチなら追撃のサッカーボールキックでもかましてやったが、知らない人なら本当に興味もない。
木葉「あたしは風雪木葉よ」
斬「木葉。お願いだ。良くないと思うから引いてほしい」
木葉「あんたバカなの? 自己紹介してあげたわけじゃないのよ」
木葉「あたし風雪木葉だから、何をやっても許されるのよ」
斬「……君も話聞かないタイプか」
も? もってなんだも?
木葉「口で言っているうちにどきなさい。力づくでもいいのよ。もしくは……そうね」
木葉「あんたがこいつの代わりになってもいいのよ」
斬「そう。なら、それでもいい」
木葉「ふぇ? え、本気? あんたこいつの友達?」
斬「知らない。だけど、ボクに変わってほしいならそれを呑んでも良い」
木葉「……?」
木葉(日本語で……なんだっけ。自己犠牲? 違うわね。なんかもっとこう……適切な表現が……)
腰に差されている木刀をなでる。
△【イベントCG004・相棒の名は四光院斬】
斬「それができるのなら――やってみればいい」
木葉「ふうん――なんだ、そっちね」
黒服が角から現れ、斬が腰にぶら下がっている木刀を握り――!
【CG OFF】
正明「やめて! 私のために争わないで!」
木葉「……」
斬「……」
正明「……」
あれ、え?
おかしい。今の絶対笑い取れるところなのに。
正明「……」
正明「ぶっ殺すぞてめえら」
斬「マサぁ……」
正明「哀れみの視線やめろ!!!」
木葉「底辺ホスト……!」
正明「カッチーン。あー、なにこの小学生。今なんて言った?」
女生徒「いや、カッチーンはないわ」
正明「ぼけええええええ!」
床に座っていたクソ女を蹴っ飛ばそうと思ったところでジャンに羽交い締めにされた。
木葉「あんたが争ってどうするのよ!?」
ぐ……このガキ、なんてキレのあるツッコミを放り込むんだ。
木葉「おい底辺ホスト。お前、あたしに何したか覚えているか?」
斬「マサ。何したの?」
正明「チッ……はあ。わかったよ。飴ちゃん欲しいんだな」
木葉「いらんわっ!?」
こいつ、一度ならず二度まで鋭いツッコミを……!
木葉「この男に暴行されたのよ」
正明「適当な事言ってんじゃねーぞクソガキ。オレは女と子どもと老人は躊躇いなく殴れるんだ」
女生徒「最低」
木葉「底辺」
斬「正明」
正明「ジャンのが一番むかつく!」
木葉「おい。こいつ、あんたの女なの?」
そうなの? と視線を送るが少し間を置いて斬は逸した。
それをどう受け取ったのかわからないが、木葉は微笑んだ。
木葉「わかったわ」
木葉「それなら――あんたの女を代わりに虐めてあげるわ」
正明「え? なにこいつ性格悪っ」
斬「マサ。鏡を見よう」
木葉「あたし知っているわよ。これ、日本の文化で連帯責任って言うんでしょ」
クソチビ――大人を舐めやがって!
言葉の代わりにヌッと現れたのは前回見た屈強な黒服。
学園生レベルの腕力自慢では天地がひっくり返ってもどうにもならない相手と見てわかるが、
正明(吠えたな――上等だ!)
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●【選択肢003:下級ホストにできること】
A.腕力勝負でボディーガードをねじ伏せる
B.ジャンを囮に逃げる
●A.腕力勝負でボディーガードをねじ伏せる
ってなると、まずは戦力分析か。
正明解析モード!
説明しよう。正明解析モードとは、相手の身長、体重、骨格、スリーサイズはもちろん正確にわからないが、身につけている時計と靴、バッグのブランドとおおよその値段を把握できる。
正明「ふむ……」
黒服「……」
スーツは……安物だな。生地が悪い。ベルト、安物。偽革。シャツ、安物だが皺一つないのは好感持てるな。ネクタイ、安物。高級品独特の重厚感が皆無。
時計……む?
GAGAMIRANO……ほほう。決して高くはない。5万~40万円前後の新興ブランドの時計だ。
リューズ。基本的に時計の右に着いている時間をあわせるゼンマイが上に付いているのが独創的で、かつ円盤とベルトを繋ぐラグが膨らむ特徴的なメーカーだ。
安いのは電池で動く自動式で高いものは機械式(手動ゼンマイ)。見た目の作りが同じくせに時計の構造が大きく異なるのは面白いが、この時計に合わせるには洋服よりも屈強な体格。
円盤48mmとかなり大きな時計はまさに190cm100kg超える人物にピッタリと合う。
なるほど。金がないんであって、センスはある、とな。ふふ。やるじゃないか。
黒服「……」
ん?
190cm100kgを超える人物と、178cmで60kgのこのイケメンが? 腕力で? 勝負?
バカなのかお前は!!! こんなの逃げるに決まってんだろ!!!
●B.ジャンを囮に逃げる
斬「マサの考えていることはわかる」
正明「え、君を愛していたことを?」
斬「違う。自分だけ助かろうとしたことだと思う」
正明「そんなことないと思う」
斬「……本当に?」
正明「ふふ。ジャンって、可愛いよな」
正明「流石オレの女だぜ……」
斬「ボクはマサの女というのは初耳だし、マサはだぜ、って語尾は使わない」
正明「使うだぜ……」
斬「使わないと思うカス」
正明「それオレの語尾じゃねーよカス!!!」
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木葉「で? 作戦は決まったのかしら」
木葉「ま、どっちにしろ底辺ホスト。あんたは、自分の女が虐げられるのをそこで見ているのよ」
正明「まあいいや。じゃあそれでいこう」
木葉「ふぇ?」
正明「よくわかんねーけどオレノーダメージなんだろ。じゃあな。ジャン。あとよろしく」
斬「待て」
正明「ヤダ」
斬「マサ。それは人として最低だと思う。もしもボクが重体で病院に運ばれたらマサはどうするんだい?」
正明「そりゃ友達だからお見舞いぐらい行くかもしれねーだろ」
斬「せめてお見舞いぐらいは来るって断言してほしい……」
正明「まーとにかくオレ関係ねーみたいだから。じゃーな」
斬「待つんだ。マサ。マサ!!!」
幸いジャンと少し距離があったため容易に一歩目を駆けることができた。
斬「木葉! マサを捕まえて!」
木葉「ふぇ!? あ、うん……おい!」
なんで共闘してるのこいつら!?
それからまたまた、長い長いマラソンが始まった。