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第五話『飴ちゃんは持ってないで~』2/2

◆【学園廊下】
学園内の廊下は怪奇現象のように人気(ひとけ)がなかった。

正明(あーん?)

久しぶりに登校したら、あろうことか生徒は誰一人居ない。
裏口が閉まってる……ってのももう昼だからいつものことだし、まさか――ッ

少し赤面しながらも、携帯で日付を確認する。
正明「マンデーじゃねーの」

もちろん平日。祝日じゃない。恥かかせやがって、となにかに怒る必要もない。
設立記念日? もしくは避難訓練とか?

正明「……ふぁーあ」
ジャンがしつこいから、せっかく時間削って足運んでやったのになんだこりゃ。

帰るべ。
昇降口へと足を運ぶ途中。
廊下の真ん中を偉そうに歩く金髪のチビ――外人だ。外国のチビが歩いてくる。


△【イベントCG047・敵を捉える正明】
正明「……」
中央を歩く正明。

△【イベントCG048・相手を見下す木葉】
木葉「……」
そして同じく中央を歩く金髪の少女。

互いに存在を認識するが両者共に物怖じするつもりは毛頭にない。
二人の距離はどんどん迫る。

正明「……」
木葉「……」
互いに道を譲ることをせず接近していき、

そして――。
正明「ドーーーン!」
木葉「ぐぇッ!」

お腹を突き出し押し倒し勝利。
正明「ふ。何人たりともこのオレのロードを止めることはできぬ」
ちょっとかっこよく言ってみたが、幼女は漠然と尻もちをついたままだった。


△【イベントCG048・正明を見上げる木葉】
木葉「ふぇ……?」
あーん……?
なんだこのガキ、とも思ったが……あれか。もしかして外国では子供が優先とか? あー、つまりあれよ。躾がされてねーわけよ。

あまりにも自分の状態が信じられないという顔をした幼女に、竹原正明に僅かながらに備わった良心が痛んだ。

正明「おいガキ。飴ちゃんをやろう。一個だけだぞ」
木葉「え……飴、ちゃん……?」
正明「ちゃんとご飯食べてから食うんだぞ。イケメンなお兄さんとの約束な」
正明「あと道の真ん中歩いてたら邪魔だからドケよ」
木葉「……」

正明「おいおい、泣くぐらいなら始めからドケよチビ」
正明「あんま調子乗るなよカス。チビ。ボケエ。ボケエ」
木葉「……」

もちろん少女は涙を流していない。彼女の瞳にあるのは、困惑。
木葉「おい」

ビクン!

煽り耐性0の竹原正明は、ほんの少しの釣り針でも簡単にかかってしまう。

木葉「あんた、このあたしが誰だか知ってるの?」
正明「……ッ!」
その日常で使われてない言い回しは――間違いない。
これはネタ振りだ――!

正明「も、もしや……もしやアナタ様はあの伝説の……!」
正明「ってただのチビやないかーい!」
木葉「……」

パシン、とツッコミで頭を軽くはたくと、いつの間にか周囲に居た教師達の血の気が引くのが正明にもわかった。

教師1「……」
理事長「……」
え……その、そんなに?

正明「ごめん。もう一回やらせて! 今度は! 今度のヤツはマジで面白いから!」
そそくさとさっきと同じ位置でスタンバイ。

正明「も、もしや……もしやアナタ様はあの伝説の……!」
正明「って同じネタやないかーい!」

パシン、とツッコミを入れてもまたしても無音。
くすり、と笑い声の一つでもあるかと思ったが、

木葉「フッ」
正明「おっ!」
やった、ウケた! ちょっと嬉しい。だよな。やっぱこういうのって外人さんの方がウケるんだ。

木葉「ふふふ……あははははははは!」
正明「はははは! なんだよもうー。かわいいお嬢ちゃんだなあ。しょうがねーな。今日はマジで特別な。お兄ちゃん飴ちゃんもう一個あげちゃう」
正明「と思ったけどオレ飴ちゃんなんて初めから持ってねーわ。はははは!」
木葉「あはははははは!」
木葉「この底辺ホストを殺せえええええええええええええ!!!」

あん? と疑問に思うよりも早く上下スーツにサングラスをかけた黒服がわらわらと集まってきた。
え、なにこれは?
状況を整理できないが、とりあえず全力で向かってくる黒服を見て、窮地があることだけは理解できた。

正明「ってクソガキ! てめえこのイケメンに底辺ホストって言ったな! 面白い眉毛してるくせに!」
木葉「早く殺せ!!! 生まれてきたことを後悔させろ!」
正明「上等だ! てめえこの喧嘩買ったからな!!!」
チッ……!

吠えたものの、前からだけでなく後ろからも黒服。横には窓があるが――って窓あるじゃん!

正明「エスケープ!」
木葉「え?」

二階から窓の手すりを振り子の原点にし、落下。重力に吸い寄せられ――。
正明「ふん!」

と、着地と同時に居た別の黒服と共に走る。

正明「てめえ覚えとけよおもしろ眉毛! このオレに舐めた態度取りやがって絶対許さんからな!」
逃げながらなので捨てセリフが届いたか、そこが気がかりではあったため危険ではあるが黒服が居る学園の方向に円を描くように走り戻ってきた。

正明「聞こえたか面白眉毛! チビ! ボケ! クソガキ! てめえ調子に乗るなよ変態眉毛! 小野妹子みてーな眉毛しやがって!」

言うまでもなく小野妹子がなんなのかわかっていない。
正明「勘違いするなよ! てめえが偉いんじゃねえぞクソガキ! お前の父ちゃんが偉いんだぞ! オレに勝った気になるなよ面白まy……ッ!」

正明「っとはっ!?」
やべえ、こいつ結構速え!
警備員かボディーガード、SPっつーの? なんかわからんけどそんなレベルと思ったがとんでもない。こいつらもしかして公僕とかじゃねーの?
こりゃマジで本気出さねえと……!

全力で駆け抜けるが、それでも離されずに付いてくる。こりゃ冗談抜きで訓練受けてるレベルじゃん? 全然引き離せない。
っていうか何よこいつ。何? 保護者? 護衛? なんで? とりあえず逃げてるけど和解できる? わからん。どうしよう?
考えがまとまらないが全力で走る正明であっても黒服との距離は開かない。

持久戦かよ……! そういや最近もお巡りさんとマラソンしたよな……!
あ、思い出してきた。望代ムカつく。あのクソメンヘラムカつく! あのボケ、カスめが! クソ! なんで健全に生きているこのオレがこんな目に!

……って速えよこいつ! なんなんだよ!?


結局振り切るまでに20分の時間を要した。


嵐が過ぎ去ると、誰もが沈黙を守った。
木葉「……おい」
口火を切るのはもちろん風雪木葉。
理事長は肘で隣の教師に合図する。
教師1「え、な、なんで私!? 私じゃなくて理事長が……」
木葉「おい!」
教師1「はい!」
木葉「……」

怒りのあまりとりあえず呼んだものの、彼女の中でも今の出来事をどう処理するべきか判断が追いついていなかった。
理事長「今のは竹原正明という当校おいての問題児でした。特待生で入学した故野放しにしておりましたが、これより退学手続きを行います」
その言葉に新人教師が驚いた。

木葉「ふざけるな――あんたバカなの?」
木葉「この風雪木葉に恥かかせたのよ。そうね。手足折って焼却炉にゴミ捨てね。あと全裸で、ホストみたいな前髪は全部抜き取りなさい」
新人教師1「ははは」

理事長「風雪お嬢様。ここは日本国で、今は騒ぎを起こすタイミングではありません」
その真剣な眼差しで初めて新人教師は認識のズレを確認して悪寒が走った。

木葉「やれ」
理事長「風雪お嬢様。どうかご理解を」
はー、とわかりやすいため息を漏らした。
木葉「あんた、本当にバカなの? わかんないの?」


木葉「あたしは、風雪木葉よ」

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