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第48話 キャラデザインが重要なポイント

「済まない、神前。アメリアを止めることは出来なかった。何事も車の運転のようにはいかないものだな……」 

 運用艦『ふさ』操艦担当、ルカ・ヘス中尉。いつものように姉貴分のアメリアの暴走を止められなかったことをわびるように頭を下げた。

「それより……菰田。オメエが何でこっちの陣営なんだ?どうせ島田への意趣返しがしたいだけだろ?それともパーラの所もかえでに美的センスがどうたらとか言われて追い出されたのか?行くところがねえんなら仕事でもしてろ。迷惑だ、帰れ」 

 かなめはパーラの後ろにいる菰田に声をかけた。

「いやあ、あちらは居心地が悪くて。それにこちらの陣営にはベルガー大尉と言う立派なお方が居ます!その美しい姿はきっと映画になっても映えるでしょう!ですので、何とかお仲間に加えていただければなあ……と……何でもやります!お茶くみでも!肩を揉むのでも!なんでも命じてください!ですから……仲間に入れてくださいよ……」 

 そう言い訳する菰田だが、アメリアとつるむとカウラに会えるという下心が誠達には一目で分かった。いつもなら嫌な菰田がそばにいるだけで不快感をあらわにするアメリアも選挙戦がかなりの接戦となっているだけあってそんな事は言ってられない状況だった。

「どこで遊んでるんだ?アメリアは」 

 カウラの言葉に誠は隊長室の隣の会議室を指差した。三人は菰田について会議室に向かう。会議室の重い扉を開けるとそこは選挙対策委員会のような雰囲気だった。

 何台もの端末に運行部のアメリアお気に入りの女性オペレーターが張り付き、携帯端末での電話攻勢が行われていた。

「なんだ、選挙事務所みたいで面白そうじゃねえか。各地の警察署に電話攻勢か?人海戦術は選挙の基本だからな」 

 そう言ってかなめはホワイトボードに東和の地図を書いたものを見ているアメリアに歩み寄った。

「やはり向こうの情報将校さんは手が早いわね。東部軍管区はほぼ掌握されたわね。中央でがんばってみるけど……ああ、来てたの?」 

「来てたの?じゃねえよ。くだらねえことで呼び出しやがって!」 

 あっさりとしているアメリアにかなめが毒づいた。カウラも二人の前にあるボードを見ていた。

「相手は電子戦のプロだけあって情報管理はお手の物……かなり劣勢だな。何か策はあるのか?」 

 そう言うカウラを無視してアメリアは誠の両肩に手をのせて見つめた。そんなアメリアに頬を染める誠だった。そんな中アメリアはいかにも悔しそうな顔でつぶやいた。

「残念だけどやっぱり誠ちゃんはヒロインにはなれないわね……私の野望は一歩後退だわ」 

 アメリアは心底残念そうに誠を見ながらそう言った。アメリアが諦めてくれたことに誠は心の底から安堵した。

「あのー、そもそもなりたくないんですけど。僕がいつ魔法少女になりたいって言いました?僕は魔法少女アニメが好きなだけで魔法少女になりたいわけでは無いんです」 

 誠はそう言うと頭を掻いた。そしてすぐにアメリアはパーラが手にしているラフを誠に手渡した。そこにはどう見てもサラらしい少女の絵が描かれていた。だが、その魔法少女らしい杖やマントは誠にはあまりにシンプルに見えた。

「これは誰ですか?ちょっと地味ですね」

 誠はアメリアの同人エロゲームの原画を担当している少しはその筋では知られた絵師でもあった。その絵師の勘が明らかに雑に描かれたキャラクターに自分ならもっと魅力的なキャラクターに仕上げられると言う自信を沸き起こしていた。

「小夏ちゃんよ……彼女がヒロインと言う線で行こうと思うの。でも私の絵だと魅力が……もっと選挙民にアピールできるような絵が欲しいのよね」

 誠の問いにアメリアはあっさりと答えた。シンプルな線で描かれたラフは中学生とみるにはあまりに幼いように誠には見えた。

「うちの行事にあのガキを巻き込むのか?後でどんな交換条件を出されるか分かったもんじゃねえぞ」

 かなめは小夏とは犬猿の仲なのであまり関わりたくないと言うようにそう言った。

「良いじゃないの……これもすべて町おこしの為よ。それにお店の宣伝にもなるじゃない?きっと本人も出演オーケーしてもらえるわよ」

 平然とそう言ってのけるアメリアにかなめは呆れたような表情を浮かべていた。

「小夏ちゃんを描いたんですか……ちょっと衣装が地味すぎやしませんかね?」 

 そう言った誠に目を光らせるのはアメリアだった。

「魔法少女でしょ?主人公なんだから白をベースにもっとさわやかなフリルとかを付けてかわいらしくした方が良いと思うんですけど」

 絵が得意な誠だけあってあっさりとそう言ってのけたのをアメリアは見逃さなかった。

「でしょ?私が描いてみたんだけどちょっと上手くいかないのよ。そこで先生のお力をお借りしたいと……」

 誠の魂に火がついた瞬間だった。痛々しい誇りが誠の絵師魂に火をつけた。

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