バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

魔人と少女 2


(イラスト:祈音 結璃先生)

 ミシロは強く剣を握り、まっすぐに城主を見据えた。

「よせ、やめろ!!」

「うわあああああ」

 走って目を瞑り、剣を振り下ろす。

 何かに当たる強い抵抗を感じた後はすっと剣は下りていった。

「ぐがあああああああ!!!」

 城主の声にならない叫び、太い動脈を切ったのか血が吹き出していた。もう助からないだろう。

「1分過ぎちゃったけど、おまけしてあげる」

 ラメルがくすっと笑って言った。

「キミの勝ちだよ。キミのことは見逃してあげる。今は、ね」

 崩れ落ちて呆然としているミシロの頭から言葉が降りかかる。

「私は……、私は……」

「何? あぁ、そうか。キミは死にたいんだったっけ」

 そうだ、自分には買える場所も未来も無い。こんな人生ここで終わりにしたかった。

「私はどうすれば……」

 ミシロはまた泣き始める。面倒くさそうにラメルはそれを見ていた。

「じゃあ私の部下になってよ」

 ハッと前を向く。

「私ね、この世界をメチャクチャにしたいの。手伝ってくれない?」

「世界をメチャクチャに……?」

 その言葉を口に出した瞬間、不思議と自分の中に高揚感が溢れた。

 理不尽で大嫌いなこの世界。メチャクチャにして壊したい……、壊したい!!!

「したいです。したいです!! メチャクチャに!!!」

「そう、わかったわ」



 アシノとイタヤ達はそれぞれ城への侵入へ成功した。ムツヤの居場所を求めて城内を走る。

 城内の兵や使用人には睡眠薬や魔法で眠ってもらい、3階建ての城を(すみ)から隅まで捜索する。

 途中互いに連絡石で会話をした。

「こちらアシノ、皆さん何か手がかりはありましたか?」

「イタヤです。何もありませんね」

「ユモトです! こちらも何も……」

「ルーよ!! 何もないわねー」

 これで残すは最上階の大きな扉の先だけになった。

 皆がそこに集合し、イタヤが先頭を切って扉を開ける。

 漂ってきたのは腐敗臭だった。

「こりゃひでえな……」

 顔をしかめてイタヤが言った。きらびやかな服を着た男が斬り殺されている。

 おそらくは城主だろう。死んで数日立ったぐらいと言った所だろうか。

 部屋に入るとユモトは1回えずいたが、気丈に振る舞う。

 何か情報は無いかと調べると、開けっ放しの扉をサワが見つけた。

「皆さん、ここ!!」

「隠し扉か……」

 アシノが言ってイタヤを見ると、頷いて返した。

「全員で行くのは危険です。俺とウリハが行ってきます。サワ、中に照明弾を頼む」

「わかりました!」

 薄暗い通路が明るくなると、イタヤは扉の奥へと入っていく。

「何だここは……!?」

 隠し部屋の先は牢屋のようだ。

 それと共に置かれているのは、何に使うのか想像もしたくない、人を傷つける為だけに作られた器具たちだ。

「魔人が置いていったのか? それとも城主が……」

 ウリハが言うと圧倒されていたイタヤが我に返った。

「あぁ、どちらにせよ素晴らしい趣味をお持ちだ」

 器具はまだしも、牢は元からあったものだろう。だが、城主はもう死んでいるし、今はこの一件は置いておくことにする。

 その時、奥の牢屋からガシャリと音がする。

「誰か居るのか!?」

 イタヤが向かうと、鉄のベッドに拘束されたムツヤが居た。

「ムツヤくん!?」

 急いで駆け寄ろうとした時だった。ムツヤが鎖を引きちぎって飛び起き。

「うがああああ!!!」

 イタヤに襲いかかった。

「なっ!!」

 イタヤは剣を引き抜いて斜めに構え、ムツヤの拳を受け止めた。

 ガキィンと、まるで鉄の塊をぶつけられたような音と衝撃が走る。

「一旦引くぞ!!」

 ウリハに言われて、イタヤも隠し部屋から出た。

「ムツヤくんが、多分だが、操られている!!」

「アイツを操るとは、流石は魔人と言った所か……」

 イタヤが言うと、アシノが感心して言った。それに対してルーが騒ぐ。

「感心してる場合じゃないでしょ!! 私達じゃ止められないわよ!!」

「時間を稼ぐ」

「はぁ!?」

 アシノの言葉にルーは疑問符が浮かんだ。

「ムツヤのことだ、おそらく魔法か何かに掛かっていても、回復は早いだろう」

「そりゃそうかもしれないけど!!」

「そ、それで、どうやって時間を稼ぎますか?」

 ユモトが尋ねるとアシノは答える。

「逃げるんだよォ! ユモト!」

「やっぱりそうなるのね!!!」

 ルーが叫ぶと、みんなで部屋から逃げ出して一階まで駆け下り、外へ飛び出た。

「ムツヤはぶっ殺そうと思っても殺せる相手じゃありません。全力を出して戦いましょう!!!」

 アシノが言うと全員が返事をしてムツヤを待ち構える。

 イタヤとウリハが最前線に並び、その後ろに残りの者たちが隊列を組んだ。

「うがあああああ!!!」

 ムツヤは走りながら拳を振り上げる。

「悪いな!!」

 イタヤが光の刃をムツヤに何度も飛ばすが、全て飛び跳ねてかわされてしまう。

 1つだけ直撃しそうになったが、ムツヤが地面を足で踏むと防御壁が現れて受け止められた。

 ウリハも火の玉や光線を出し、それと共に特攻を仕掛けたが、ムツヤに傷一つ負わせられない。

「うらあああ!!」

 それどころか蹴りを食らいそうになってしまい、剣で受け止める。

 あまりの力に剣が弾かれ遠くへ飛んでしまった。

「ウリハ!!」

 イタヤは叫んでウリハの元へ向かう。それを援護するようにサワとユモトの魔法攻撃が飛んでいった。

 氷も、雷も、炎も、ムツヤが魔力を込めた右手で薙ぎ払うと消し飛んでしまう。

「はーい、おまたせー」

 精霊を召喚したルーはムツヤを取り囲ませた。

 この戦いは時間稼ぎが目的だ。付かず離れず一定の距離を取らせて戦わせる。

 ルーの作戦は上手くいったようで、ムツヤは精霊相手に暴れまわっていた。

 その隙間からヨーリィが木の杭を投げて、ささやかながら邪魔をする。

「魔法を!! とにかく打ち込め!!」

 ユモトとサワは魔法を精霊の群れの中心に打ち込んだ。そこら中で爆発音が鳴り響く。

 だが、時間が経つにつれて、確実に精霊の数は減っていった。

「ルー!! 精霊は追加できるか!?」

 アシノが言うが、ルーは汗をびっしょりとかいて苦しそうにしていた。

「が、頑張るわ……」

 精霊の群れから飛び出たムツヤが近くに居たモモに殴り掛かる。

「ムツヤ殿!!」

 無力化の盾で受け止めた為、衝撃は感じなかったが、ムツヤの形相を見てモモは怯む。

 ウリハが飛び出て斬りかかるが、ムツヤに払いのけられて鎧が割れ、服がはだけて吹き飛んでしまっ

しおり