Chapter 07
翌日、翔は自分から大江に話しかけた。
「昨日は楽しかったですわ。また近いうち連れてってください」
「あ? おう、そうか。誰かお気に入りの女でも見つけたのか? まぁ全員俺の中古だけどな」
昨日とは打って変わって、いつも通りのぶっきらぼうな態度で答えた。
あの子の顔がまたフラッシュバックする。アニキの笑顔も浮かぶ。そして、翔が失くしかけてた〝自分〟という人間の影も。
「んじゃあ今日行くか。昨日の女、締まりが良くてまた早くヤリてぇなって思ってたとこなんだよ」
思った以上に早く決着を着けられそうだ。翔はそう思った。
大江は、クラブに着いたら早速あの子、椎那を横につかせた。
「無愛想だけど、このウブな感じがタマンねぇんだよなぁ!」
そう言ってまた胸を揉みながら酒を飲んでいる。酒が回って来たらまたバックルームを空けるようボーイに耳打ちをする。
椎那は明らかに怯え出した。今度は翔の顔も見ずにただ下を向いて、諦め切っていた。
翔はその顔を見て武者震いした。
大江が椎那の腕を掴んでバックルームへと向かった。
一分も経たずして、翔も席を立った。
トイレの個室に入って便座のフタにコカインをぶち撒け、ラインも作らず鼻から吸い込んだ。余りを手に擦りつけて歯茎にも塗りたくった。
そしてジャケットを脱ぎ、迷う事なくバックルームのドアを開けた。ジャケットをそこらに投げ捨てながら唖然とする二人を見て言った。
「オヤジ、ちょっと急用です」
「なんだぁテメェよぉ!」
怒号が飛ぶも翔は冷静だ。
「ちょっといいか?」
椎那を外に出した。
「テメェどういうつもりだ小僧?」
そう威嚇する大江に一歩も立ち止まらず迫り、腰に隠し持ったナイフを取り出し喉を一突きした。即死だった。
裏口を開けると浅井と、森山組と思われる人間が数人来ていた。
浅井は翔に新しいシャツと札束が入った紙袋を渡し、翔は浅井に血のついたシャツとナイフを渡した。
他の組員は慣れた手つきで大江の体を車に運び出し、そのまま言葉を交わす事もなく走り去って行った。
翔はしばらく立ち尽くした後、そこら辺にあるティッシュやメイク落としで出来る限り飛び散った血を拭き取り、札束の入った紙袋に詰め込み、床に投げ捨てられたジャケットを拾い、紙袋を包み込むように手に持ち、表に戻った。
椎那が不思議そうに翔の事を見つめる。
「組長帰ったで」
それだけ言い残し翔も店を後にした。
——翌日、事務所に顔を出した。静けさと殺伐と張り詰めた空気が漂う中、陣内が近づいてきた。
「翔、お前ちょっと表出ろ」
「はい」
翔は冷静を装いながら答えて、陣内と共に外へ出た。
「オヤジが昨日の夜から連絡つかねぇ。お前一緒にクラブ行ってたんだろ。何が起きたんだよ」
「なんか急用思い出した言うて先帰りました。自分も一人じゃあれなんでその後すぐ帰ったんですけど、オヤジ今日来てないんですか?」
「しらばっくれるな。お前がやった事はわかってる。俺は朝イチでママに連絡して聞き込みしたんだよ」
「え」