第26話 自由の国にも規制は有るのです
「島田君。レースなんてつまらない物より、もっと華のあるものを映画にしたらどうだろうか?ここは自由の国東和だよ。レースドキュメント映画なら甲武でも作れる。ここは甲武では絶対に検閲に引っかかって作れない自由な発想の美しい映画を作るべきだと僕は思うんだ」
かえではさわやかな笑顔を浮かべてそう言い放った。
「かえで、言っとくけどポルノ禁止な。それとこの国のポルノにも規制は有るからな。東和に来たばかりのかえでには分からねえかもしれねえが……それ以前の問題か」
島田を鼻で笑おうとして口を開いたかえでに向けて姉のかなめが冷たく言い放った。その言葉にかえでは明らかにショックを受けたように愛する姉の顔を穴があくまで見つめた。
「そんな!この国は自由の国ですよ!それに僕もこの国に何件もポルノ映画館が有ることくらい知っています!甲武の様にキスすら上映することが禁じられている規制の厳しい国と違って、ここは自由の国!この僕の美しい肢体を多くの人に見てもらいたい!愛と性の入り乱れた淫靡な世界の中で乱れる僕の姿を多くの人に見てもらいたい!そんな思いがなぜこの自由の国東和では許されないと言うのですか!お姉さまおかしいですよ!」
かえではそう言うと自分の豊かな胸を自ら揉みしだいた。
「だからポルノは禁止だ!これは市の行事だ!どこの自治体がポルノ映画を作るんだ?なあ、かえで。そんな自治体があるなら教えてくれ?それと今回の作品は餓鬼も見るんだ。この国のポルノ映画館は18歳未満は立ち入り禁止だ。そんな事も知らねえのか?それと、甲武でオメエみてえなエロい好き者が私的に作ってるブルーフィルムじゃねえからお前自慢の身体を生かしたエロいポルノを作っても、オメエが一番見せたい場所にはモザイクが入るからな。オメエの大好きなおっぴろげなんてできねえからな。東和が自由の国でも常識のある国なんだ。オメエみてえにエロの常識がぶっ飛んでる奴には理解できねえかもしれねえがな」
妹の趣味を知り尽くしている姉の言葉にかえでは声を失っていた。
「かえで様。この国のアダルトビデオでも女性の美しい秘部にはモザイクと言う無粋なものが掛けられております。私が研究した限り、それが無い映像の販売や上映は禁止されております。この国は自由とは名ばかりの無粋な国です」
ショックを受けているかえでにリンが助け舟の様にそうささやいた。
「そんな……僕の行為を映した動画は『許婚』である神前曹長に渡してあるが、神前曹長、本当なのかい?この国の市販されているアダルトビデオにはモザイクなどと言う無粋なものが入っているとは。僕の行為を撮影したアレにはモザイクなどと言う無粋なものは入れていないはずだ」
いきなり一番関わりたくない場面の中心人物に仕立て上げられて誠は動揺していた。
確かにかえでからかえでとリン、そしてかえでのメイド達が行為にふける動画をかえでから『夜のお供にしてくれ』と言われて渡されて、事実夜のお供にしていた。それには確かにモザイクはかかっていなかった。
「おい、神前!テメエは日野少佐の無修正動画を持ってるのか!なんて不埒な野郎だ!それでも男か!俺にも見せろ!」
『純情硬派』を売りにしているヤンキーである島田は誠の住む寮の寮長である。その目の前で誠は秘密がバレたことに焦っていた。
「あのですね……これは……『許婚』としての……」
必死になって言い訳を考える誠だが、口下手な誠に良い言い逃れの言葉など出てくるわけが無かった。
「島田准尉?なぜ、君に僕の美しい秘部を見せる必要があるのかな?君は僕の『許婚』では無い。しかも、君の姿と知性は僕の美的センスとは相いれない存在だ。そんな人物に僕の愛の行為を見られたいとは思わないな。神前曹長が見るのは自由だが、神前曹長以外にはあの動画は見られたくない。汚らわしい!」
誠の代わりに反論してくれたかえでだが、その論点はどこかズレていた。
「あのさあ、俺もモザイクは邪魔だなあとは思ってるけど、今回の作る映画とはその話題は関係ないじゃん。もう一度出発点に戻ろうよ。後ろ暗い金の話とか常識外れのポルノ映画とかまず問題外じゃん。そんなの作る訳にはいかないの。ちゃんとした映画を作ろうよ」
そんな何気ない嵯峨の言葉に誠はこの人物がこの『特殊な部隊』の隊長で本当に良かったと心底思える瞬間が初めて来たと感動した。