第20話 時限爆弾のタイムリミットが設定ミスで90時間になってて緊張感ゼロすぎた
素人なのに爆弾の解体しないといけないって状況、よくあるじゃないですか。で、青か赤か最後に残った2本の線のどちらかを切らないとやばいっていう。
でも、爆弾も機械でコントロールしてるわけなんで、世の爆弾魔の人たちはちゃんと爆弾の設定チェックした方がいいですよ。
せっかくの爆弾なのにめちゃくちゃ白けちゃいますからね……。
〜 〜 〜
空いてる時に実家に帰省しようと思って、ゴールデンウィーク明けに東京駅から新幹線で実家に帰省したんです。なんですけど、その新幹線に爆弾が仕掛けられてて、しかも、私の席の下なんですよ。
私の席にスマホが貼りつけられてて、そこにかかってきた電話でお知らせされたんです。
『くっくっく、その爆弾は90分で爆発する。お前がそこにある道具で解体するんだ。おっと、新幹線を停めようと思うなよ。停まれば爆弾は爆発する』
「今半のお弁当を奮発して買ったんで、食べるの楽しみにしてたんですけどね……」
『そんな悠長なことを言っていられるか？ 乗客の命もかかっているんだぞ？』
「チッ、分かりましたよ……」
『え……、いま舌打ちした？』
今半のお弁当って東京駅で3000円くらいするんですよ。めっちゃ楽しみにしてたの。だから、思わずイラついちゃったんです。いつもは比較的穏やかなんですよ、私。
「爆弾仕掛けるならゴールデンウィーク中にすればよかったのに。今日かなり空いてますよ」
『あのね、あなたの席の下に爆弾あるんだよ？ もうちょっと緊張感をだね……』
「あーはいはい、分かりましたー。で、どうすればいいんですか？」
『爆弾の上に座ってると思えない冷静さだな……。まあ、いい。そのうち絶望に打ちひしがれるだろうがな』
「そういうの要らないんでさっさとなにすればいいか教えてください。さっさと片付けて今半のお弁当食べたいんで。限定20食とかだったんですよ」
『ああ、もう！ 今半の話しないでくれる？ とにかく、席の下に爆弾あるから、足の間に引っ張り出して』
言われた通りに引っ張り出すと、お馴染みのタイマーがカウントダウンしてました。色んな線が出てて、まさに爆弾って感じの爆弾なんです。
「引っ張り出しました。だいたい何分くらいで終わります？ 名古屋くらいまでにクリアできる？」
『いや、そんな謎解きゲームじゃないんだから、目標タイムとかないんだよ。必死に頑張れば解体できるよ』
「新幹線に爆弾ってNetflixの映画のマネみたいですね」
『俺の計画の方が先だから！ 実行する前に配信されちゃったの！』
そういう間が悪い奴っていますよね。なにやってもダメなの。で、爆弾のタイマー見てたら、時間の減り方が変なんです。いま『89:55:27』で、1秒ごとに右側の2桁が切り替わってんです。
「あの、これタイマー90時間になってません？」
『は？ そんなわけないだろ。90分だよ、90分』
「新幹線出てからタイマー動かしました？ だったらやっぱり90時間になってますよ。別にこれ私がなんかしなくていいやつですね」
なんか電話の向こうで慌ててる音がするんです。何か調べてるっぽいんで、その間に今半のお弁当を開けました。すき焼き重の割り下の香りが食欲をそそるんです、これが。
『あのね、タイマーの写真撮って送ってくれる？』
「写真…………撮るんですね………。ちょっと…………待ってて…………」
『もしかしてお弁当食べてます？ あのね、どこの世界に爆弾解体中に今半食べる人がいるんですか！』
ギャーギャーうるさいのを無視して、撮った写真を爆弾犯に送ると、沈黙が返ってきました。設定ミスってたみたいです。
『……あのですね、こんなこと頼むのは心苦しいんですけどね、爆弾なんですけど、今から言う住所に送ってもらっていいですか？ 着払いでいいんで』
「ずっと置いとけばいつか爆発しますよ、きっと」
『いや、俺もそんな気長に待ってられないんですよ。また設定し直して仕掛けるんで』
「私が間違った線切れば爆発しません？」
『なんであなたがそんな提案してくるんですか。俺だってそんな酷いこと思いつきませんでしたよ。どういう神経してるんですか』
爆発させたいのかさせたくないのかはっきりしない奴です。どうりで失敗するわけですよ。
「着払いとか面倒なんであなたが取りに来てください」
『あ、ちょっと……！』
電話切ってやりましたよ。これでやっと今半に向き合うことができます。爆弾犯から何回か電話がかかってきたんで、電源も切っときました。実に有意義な新幹線の時間を過ごすことができたので、よかったです。
新幹線降りる前に警察に連絡しといたんで、爆弾犯が爆弾取りに来た時に逮捕したと思いますけど、そこは追ってないんで詳しくは知りません。
