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Chapter 01

勝手にOP主題歌 〜U2 - Vertigo〜



 その男は親を殺した。

——男の名前は戸狩翔とがりしょう。暴力的な父親と無関心な母親の元に生まれた。父親は翔が小学生の時に出ていき、母親は翔が十四歳の頃、母方の親戚に翔を預けた。そこから両親とは連絡すら取っていない。

 預けられた先では、家にも学校にもうまく馴染めず、やがて繁華街に出入りするようになる。そこで知り合ったヤクザの千葉ちばという男に惚れ込み、そのまま弟分として千葉が所属する大江組に組入りした。

 順調に裏社会の道を歩んでいたが、些細な町の喧嘩で慕っていた千葉が刺されて殺されてしまった。そこから大江おおえ組長の運転手を務める事になったが、そこで目の当たりにしたのは、毎日繰り返される理不尽な暴力、レイプなど、大江の権力を利用した悪行の数々だった。

 そんな地獄のような日々で怒りと混乱、そしてコカインにまみれていた翔は、敵対組織である森山組の浅井あさいという男から、多額の報酬と、森山組での重要なポストを引き換えに、大江の殺害をけしかけられた。

 暴力に耐える日々にレイプされた女の子を救えなかった事の後悔、大江組の未来が暗い事も相まって、翔はその要件を飲み、大江を殺害した。

 しかし話をまとめる前に大江組の若頭補佐である陣内じんないにすぐに殺した事がバレてしまい、森山組入りの計画は破綻。

 翔は大事になる事、他の組への寝返りという事になる事は避けたかったため、犯行は自分と地元の友達を使って単独で行ったと話し、浅井や森山組の話は出さずに殺しを認めた。

 しかし陣内は男が毎日大江に苦しめられていた状況、かつて陣内の可愛がっていた後輩も同じ目にあって自殺してしまった過去から、翔を見逃す事を決意。

 組には報告せずに、北海道に身を潜める事を指示した。翔はそれに従い、一人その日の最終便の北海道行きの飛行機に乗った。

——同じ頃大阪では、とある居酒屋で大学生達が盛り上がっていた。

「おつおっつー」

「おーい、ひさしぶりー! 遅かったやんー」

「すまんすまん」

「相変わらず忙しそうやな、とりあえず乾杯!」

「「かんぱーい!」」

 丸井歩睦まるいあゆむと、中学からの幼馴染の西澤にしざわと津田つだだ。歩睦は子供の頃から勉強が得意で、高校も偏差値の高い高校へ入学し、大学も最上位大学といういわゆるエリートだ。

津田「みんな大学行ってからなんだかんだ会えてなかったよな」

西澤「歩睦なんて中学の終わりから受験勉強漬けになっちゃって、高校入ってからも二回か三回くらいしか会ってないよな?」

歩睦「そうやね、なんだかんだで時間合わんかったな。まじ久しぶりで嬉しいわ!」

 三人は久しぶりに会えた喜びを讃え合った後、他愛もない話から中学時代の思い出話、彼女との喧嘩話に花を咲かせた。そして最後の青春を惜しむように、卒業後の進路の話になった。

津田「俺らももう来年から社会人やで。もう内定決まったん?」

西澤「まだ四月始まったばっかやで、内々定は一応何社か出てるけど。お前は?」

津田「じゃあとりあえず安心やん。俺は一応もう決まってる。外資はなんか早めらしいわ」

西澤「おぉー、さすが、将来安泰やな」

津田「そんなんまだわからんけどな、歩睦は? やっぱ超大手企業やろ?」

歩睦「や、俺は実は起業しようと思ってんねん。だから余計勉強に時間取られててさ」

津田「ガチ?! やっぱすげぇなぁ。絶対成功するやろうけど応援してるで!」

歩睦「おう、ありがとう!」

西澤「それもういつからとか、もう準備整ってんの?」

歩睦「一応スタートアップを支援してくれる会社とか、エンジェル投資家とも何人か話してて、話まとまり次第って感じかな」

西澤「ほぇー!」

津田「んなとりあえずみんな一旦は安心って感じやな。もうおもっきり遊べんのも今年が最後やし、夏はパーっとどっか旅行でもいかへん?」

歩睦・西澤「いいねぇー! いこいこ」

 三人は学生最後の夏休みに羽目を外す計画を立て始めた。

津田「とは言っても、金もそんなないし国内でええよな。やっぱ夏といえば沖縄とか?」

西澤「王道やなー。俺はアリ」

歩睦「俺もアリ。せっかくやから他にも誰か呼ばへん?」

津田「ええなぁ。でも俺中学ん時の友達で連絡取ってんのお前らぐらいやで」

西澤「俺は一応バスケ部のグループはたまに動いてるけど、お前嫌われてたもんな」

津田「誰がやねん! お前誰か呼びたい奴おるん?」

歩睦「んー、翔とか久々に会いたいねんなー」

津田「え、戸狩翔? めっちゃヤンキーやったやん。そういや歩睦なぜか仲良かったもんな」

西澤「俺も同じクラスなった時仲良かったで。話したら普通にいい奴やんって思った記憶あるわ」

歩睦「そやねん。俺もあいつが中三時引っ越しちゃってからしばらくは連絡取っててんけどさ、受験勉強が忙しなってからあんま返せんくなって、そのままやねんな。でもずっと気になっとって」

津田「俺も歩睦んち遊びに行った時とかたまに翔もいて一緒に遊んでたしええで。確かに久しぶりに会いたいわ」

西澤「でもお前会ったらしばかれんちゃん」

津田「なんでやねん! でも連絡先知ってんの?」

歩睦「いや、なんかラインは消えててんけど、電話番号も交換してたから一応知ってんで」

西澤「え、今ちょっと電話かけてみようや」

 三人は中学の同級生だった翔も誘う事にした。酒に酔ってる事もあって、いきなり電話をかける事にした。

「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」

歩睦「あかん、番号も変わってもうてるわ」

西澤「うわー、会いたかったなー、今何してんねやろ」

津田「ヤクザとかなってるかもしれんで」

西澤「まぁありえなくはないな」

 二人が冗談混じりに笑っていると、歩睦がある欄を見て興奮気味に言った。

歩睦「あ、でもメアド残ってるわ! ちょっと帰ってからメール送ってみるわ。もし返事来たらまた言うわ」

西澤・津田「おっけい!」

 その日終電ギリギリまで飲んで、歩睦たちは解散し、歩睦は家に帰るとシャワーを浴び、ベッドに着いて改めて翔にメールを送った。

「翔! 久しぶり! 色々忙しくて連絡出来んかってんけど元気してる? こないだ久々に西澤と津田に会ってんけど、今年の夏沖縄に旅行行こって話になってさ、翔も誘おうやって話になってん。もし行けそうやったら一緒に行かへん? 俺、個人的に翔に話したい事あんねん」

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