第17話 怒れるサイボーグと穏やかな青年
「それにしても、アタシとアメリアはセットで雑に扱われてねえか?特にあの餓鬼!いくら副隊長で上司だからって威張るんじゃねえよ。何が34歳だ!どう見ても8歳じゃねえか!餓鬼は餓鬼らしく大人しくしてろってんだ」
そこまで言ったところでランのことを思い出して、かなめは右手を思い切り握り締めた。
「まあ良いじゃないの。あのおちびちゃんもその銃が怖くて隊では誰も逆らえないかなめちゃんを上から目線で注意することでなんとか威厳を保っているんだから。あの姿のおかげで司法局の偉いさんに舐められっぱなしでストレス溜まってるのよ。それより誠ちゃん。さっきので制服の袖、油臭くなってない?」
そう言いながらアメリアは誠の腕を持ち上げた。
「油ってなんだよ?アタシはロボか?」
いつもなら食って掛かるところだが、かなめは黙ってカウラのスポーツカーの後部座席に乗り込んだ。
「殴らないのか?」
カウラはそう言いながら誠とアメリアが乗り込んだのを確認するとエンジンをかけた。
「餓鬼とは違うからな。それより時間がねえんだろ?急げよ」
そう言いながらかなめはシートベルトを締めた。確かにランが正式配属になった去年の晩秋から、かなめが誠を殴る回数は確実に減っていた。車は駐車場から出て、石畳の境内をしばらく走った後、駅に続く大通りに行き着いた。
「いつもの市民駐車場でいいでしょ?あそこはいつでも空いてるし」
そう言うアメリアにカウラは頷いた。
「市民会館か。そう言えば場所は知ってるけど入ったことないな……どんなだ?」
かなめはそう言って後部座席の隣に座っている誠を見つめた。
「普通ですよね、アメリアさん。典型的な市が作った箱もの施設って感じの建物」
誠の言葉にアメリアは黙って頷いた。それを見てカウラが怪訝そうな顔をした。
「カウラ誤解すんなよ。こいつ等のアイドル声優のコンサートチケットをアタシが確保しておいたことがあっただけだ。それに当然小夏も一緒だったからな」
ハンドルをカウラが握っていると言う事実がかなめを正直にした。節分の祭りを見に来た観光客でごった返す駅から続く道を進み、銀座通り商店街を目指した。
「そう言えば今日は歩行者天国じゃないの、市民会館前の道。じゃあ、国道から直接市民駐車場と言うわけにはいかないわよね。となると車じゃ回り道しないと行けないわね」
そう言うアメリアにカウラはにやりと笑みを浮かべた。いつもの道の手前で車を右折させ路地裏に車を進めた。
「このルートなら大丈夫だ。市民会館から少し離れた市民駐車場で道も狭いが通行止めではない。普段は高校の通学路で自転車が多いから使わないんだがな」
車がすれ違うのが無理なのに一方通行の標識の無い路地裏を進んだ。アメリアとかなめはこれから起きることが予想できた。
軽トラックが目の前に現れた。今乗っているのが西の軽自動車なら楽にすれ違えただろう。あいにくカウラの車は幅のある普通自動車の『スカイラインGTR』である。カウラはため息をつくとそのまま車をバックさせた。軽トラックのおじいさんはそのまま車を近づけて来た。
結局、もとの大通りまで出たところで軽トラックをやり過ごした。
「大回りすればいいじゃないの……その方がきっと早いわよ」
呆れたように言うアメリアだが、意地になったカウラは再び車を路地へと進めた。
「ああって私達いつ着くのかしら」
目を血走らせるカウラを横目にアメリアが大きなため息をついた。