第16話 まとめに入る『副隊長』
「おい、オメー等。いい加減遊んでないでパーラ達の手伝いに行けよ。手が空いてんだろ?社会人なら子供の相手より仕事を優先しろ。この時代行列も一応は仕事なんだ。そこんところ理解しとけよな」
小夏の友達に隠れていた小さい上司のランが声をかけた。だが、かなめとアメリアは小夏への制裁をとめるつもりは無い様だった。
「まあ、アメリアが人の話を聞かねーのはいつもの事だし、西園寺は馬鹿だから理解能力ゼロってことで……仕方ねーなあ。カウラ、神前。行くぞ。アイツ等に関わってるとこっちも馬鹿になる」
そう言うとカウラと誠の前に立ってランは参道を下っていった。
「姐御!見捨てないで下さいよ!全部小夏が売って来た喧嘩を買っただけなんですから!」
小夏をしっかりとベアクローで締め上げながらかなめが叫んだ。
「西園寺。小夏は中学生だろ?かまうからつけあがるんだ。そんなもん大人なら無視しろ、無視」
そう言いながらランは立ち去ろうとした。かなめとアメリアは顔を見合わせると小夏を放り出してラン達に向かって走り出した。
「遅いですよ!クバルカ中佐!」
叫んでいるのは司法局実働部隊運行部の総舵手のルカ・ヘス中尉だった。いつもの愛車のがっちりとした『ハチロク』の窓からロングの濃紺の髪を北から吹き降ろす冷たい風にさらしていた。その遺伝子操作で作られた髪の色が彼女もまた普通の人間でないことを示していた。
「また冬に水浴びて楽しいんですか?」
後部座席から顔を出す技術部整備班長島田正人准尉の姿が見えた。彼と付き合っているピンクの髪のサラ・グリファン中尉は車内から手を振っていた。島田の言葉にむっとするかなめだが、アメリアが肩に手を置いたので握ったこぶしをそのまま下ろした。
「何人乗れるんだ?この車」
広い後部座席を背伸びをして覗き込もうとするランだが、その120センチそこそこの身長では限界があった。
「一応5人乗りですけど?」
ルカの言葉にランは指を折った。
「ルカとサラ、それにアタシと小夏にひよこ……」
「俺は降りるんですか?じゃあ市民会館までどうやって行けばいいんですか?歩くんですか?あそこまで結構ありますよ」
後部座席から身を乗り出して島田が叫んだ。
「お前のはあそこだろ?」
ランが指をさす先には技術部火器管理担当の西高志兵長のおんぼろの軽自動車が止まっていて、すでに助手席にはアン・ナン・パク軍曹が座っていた。
「それなら私もそっち行くわね!」
そう言ってサラが降りた。だが島田は小さい西の車の後部座席が気に入らないのか、しばらく恨めしそうにランを見つめた後、静かに車から降りた。
「残りはカウラの車だな。頼むわ。アタシ等はかえでは渡辺が来るのを待ってるから……アイツ等野外で興奮して変態行為をしているな。後で修正してやる」
そう言いながらランは明らかに低い車高の車に乗り込んだ。思わず笑いそうになったかなめをその普通にしていても睨んでいるように見える眼で睨みつけた後、ランはそのまま後部座席にその小学生のような小さな体をうずめた。
「じゃあ……ってタオル確か持ってきてたよな、アメリア」
手に車のキーを持っているカウラが髪の毛を絞っているアメリアに声をかけた。
「ああ、持ってきてたわね。じゃあ急ぎましょう」
そう言うとアメリアは小走りにカウラの『スカイラインGTR』を目指した。
「西園寺さんも……」
誠が振り向こうとするとかなめは誠の制服の腕をつかんだ。
「神前……」
しばらく熱い視線で見つめてくるかなめに誠の鼓動が早くなるのを感じる。だが、かなめはそのまま誠の制服の腕の部分を髪の毛のところまで引っ張ってくると、濡れた後ろ髪を拭き始めた。
「あのー」
「動くんじゃねえ。ちゃんと拭けねえだろ?確かにサイボーグのアタシはこのくらいじゃあ風は引かねえが濡れてると冷たくて嫌なんだ。少しの間だ、我慢しろ」
誠は黙って上官の奇行を眺めていた。
「なにやってんのよ!そんな誠ちゃんの制服で拭くなんて……こっちにちゃんとタオルあるから!」
奇行に走るかなめを見つけてアメリアが叫んだ。仕方なくかなめは誠から手を放すとカウラの車に向けてまっすぐ歩き始めた。