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87.「あなたのファンです」

 朱墨ちゃんが動いた。
 青い体に白い6枚の羽を持つ、ドラゴン型の巨大ロボットが、なぜか両手の平を上にして、胸の前で並べてる。
 ああっ! そうだった。
 まずは、ウイークエンダーが手にしているカービン砲だ。
 急いで腰の後ろに回す。
 ガチッと音がなって、フック金具に固定された。
 続いて、ウイークエンダーの手をパーフェクト朱墨と同じにする。
 これは、エチケットなんだ。
 しかも、20年以上の、つまりバースト由来の歴史がある。
 巨大ロボットと人間サイズの異能力者が話すとき。
 その視線をしっかり合わせる。
 手は、そのための舞台にするの。

 夜の闇を突っ切って、黒い炎の鎧兜たちが私たちに向かって来る。
 センサーでやっと拾える、驚異の光景。
 あれがルルディ騎士の本隊。
 その軌道が分かれて、町中に降りていく。
 その軌道の1つが、私たちが広げた手の平を目指して・・・・・・アレ、1人?
『もともと、50人もいませんよ』
 それは、大変そうだね。
 朱墨ちゃんが教えてくれて、本気でそう思う。
『あちこちの指揮官に説明に行くらしいです。
 王妃と王を捕まえるために、みんな必死なんです』
 なんだアレ。
 私たち担当の騎士の軌道が、小刻みに途切れとぎれになってる?

 データベースには、あった。
 レイドリフト・ストレートキーパー。
 本名は三ツ峠 聖章(みつとうげ きよふみ)。
 能力は距離3メートルまでの瞬間移動。
 短距離しかできないのか。
 ただし、何度も繰り返すことができるし、連続して発生させる速度も早い。
 そのため、移動できる距離そのものは長い。
 そうか。今見えてる、軌道のとぎれは。
 落下した先にテレポートのための入り口を作って、さらに下に出口を作る。
 このとき、出口の向きを上にする。
 そうすれば、落下の向きが上に向くから、速度が落ちるんだ。
 頭いい!
 武器としても強力だね。
 彼の能力は空間に裂け目を作れるから。
 それをぶつければ、切れない物は存在しない。
 経歴もすごいや。
 小学生からはじめて、今は大学生。
 10年選手だよ!

 よかった!
 ドドーンと両足を叩きつける乱暴者じゃなくて。
 いるんだよ。ルルディ騎士に限らず。
 体の頑丈さだけをたよりに、一直線に落ちてくる人たち。
 自由落下と言うヤツ。
 そんな衝撃でウイークエンダーの手はどうにもならないけど。
 何度もやられるのは気分の良いものじゃないよ。

 それに対して目の前の人は、音もなく降り立った。
 しかも、たぶんどけど、自由落下よりも早かった。
 なかなか良いね。

『北辰が集まりました』
 アーリン君が教えてくれた。
 パーフェクト朱墨の回りに、音もなく、3機の緑色のキツネ型ロボットが。
『皆さんにも聴いてもらいたい。
 しゃがんでください』
 そうだね。
 腰を落として、手は地面ギリギリにする。
『こっちも、しゃがみますね』

 やがて私の前にいた騎士が、兜を脱いだ。
『佐竹さんには、はじめましてですね』
 私よりは年上、かな。
「そうですね。はじめまして」
 男の子と大人の男性の境目の顔立ち、と言うのかな。
『俺はレイドリフト・ストレートキーパー。
 あなたのファンです』
 ファン、と言うわりには、うれしそうに見えなかった。
 なんと言うか、おびえて、うろたえてる?
「ウイークエンダー・ラビットのパイロット、佐竹 うさぎです」 
『佐竹さん、あなたの動画を見ました』
 何が忘れられたのか、のことだね。
『あのあとテルガド共和国について調べました。
 完璧な再現だと思います』
 そうですか。
 それならよかった。
 とは言うものの、彼が青ざめてる理由は分かった。
 あれはテンション高く「ヒャッホー! うさぎちゃんの作品だー! 」と、よろこぶ物じゃない。
 困惑してるのは、たぶん私も同じ。
 いつものカウンターパート、対応相手なら、機械系レイドリフトだもの。
 それに、よく合う機械系レイドリフトから知らされてる。
 レイドリフト・ディスパイン、成沢 あかねさんから。
「百万山市には行かない。行っても恥をかくだけじゃない」と落ち込んだレイドリフトは、ストレートキーパーだった。
 その彼が、今は必死に頭を下げてる。
『お願いします。
 我々ルルディ騎士団の最高責任者にして、最強の戦士2人をとらえるため、力を貸してください』

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