第11話 コンプレックスを刺激する女
「そういえばアタシも鎧を着ている間中胸がきつくてねえ。良いなあカウラは体の凹凸が少なくて……胸がでかい身体もこういう時は考えものだわ」
そう言ったかなめだが、いつもなら皮肉を飛ばす相手のカウラがかなめの言うことを無視して黙っているところで、かなめは背後の小さな存在に気づくべきだった。
「おー、言うじゃねーか。それにはアタシも当てはまるんだな?確かにアタシは鎧を着ても邪魔になるものはねーな。着るのもすんなり着れた。便利だぞ、胸の無い身体も」
恐る恐るかなめが視線を下げるとそこにはどう見ても8歳くらいに見える制服姿のランが立っていた。その手にいつもどおり竹刀が握られていた。
「いえ、姐御。そう言う意味では……それに姐御が胸が無いのは幼いからであってこれから成長すれば……まあ4億年成長してないってことは成長しないんですよね、姐御は」
思いもかけぬところに登場した天敵であるランの存在にかなめはみるみる青ざめていった。
「じゃあどういう意味なのか言ってみろよ!詳しく知りてーんだ。懇切丁寧に教えてくれ。誰の身体の凹凸がほとんどねーんだ?言ってみろ?西園寺」
ランの竹刀がかなめの足元を叩いた。誠はうまいことそのタイミングを利用してすばやく上着を着込み、帽子をかぶった。
「じゃあ、クバルカ中佐。私達は先行ってますからその生意気な部下をボコっておいてください。かなめちゃん、口は災いの下よ、周りをよく見てから発言することね」
敬礼をしたアメリアが誠とカウラを引っ張って境内に歩き始めた。そのかなめの色気のあるタレ目が誠に助けを求めているような様子もあったが、満面に笑みを浮かべたアメリアは誠の手を引いてそのまま豆まきの会場に向かう観光客の群れに飛び込んだ。
「それにしても混みますねえ。なんか東都浅草寺より人手が多そうですよ。やっぱり流鏑馬なんて東和じゃ珍しいですからね。イベントが有ると集客効果が有ると言うことでしょうか?」
アメリアの手が緩んだところで誠は自分を落ち着かせるためにネクタイを直そうとしてやめた。恐怖すら感じる数の人の波を逆流するためにはそんなことは後回しだった。そのまま三人は押し負けてそのまま道の端に追いやられて八幡宮の階段を下りていった。人ごみを抜けたと言う安堵感でアメリアとカウラは安堵したような笑みを誠に投げかけた。
そのまま群集から見放されたような階段が途切れ、コンクリート製の大きな鳥居が見える広場に出た。
「隊長の流鏑馬は去年も好評だったからな……去年よりかなり客は増えたようだな。たぶん人伝(ひとづて)でいろんなところに広まっているんだろう。かなり訛っている人もいたから地方からきている客も居るんだろうな。そう考えると我々の活動も市の役に立っていると言うわけだ」
そう言ってようやく人ごみを抜け出して安心したというようにカウラは笑った。