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第12話 殺人計画を練ってるのか推理をしてるのか分からないおじさんと話してたら頭痛くなってきた

 世の探偵の皆さんは飲み屋で自分が手がけた事件の推理なんかを気持ちよく話していることでしょう。

 でも、はたから見るとめちゃくちゃ物騒な話してるだけにしか思えないんで、ちょっと気をつけた方がいいです。

 先日の飲み屋で会ったおじさんがやばかったんですよ……。


〜 〜 〜


「噂は聞いてますよ、事件を引き寄せているとか」

 飲み屋でおじさんにそう声をかけられました。ここ最近、こんな感じで話しかけてくる人が増えてきました。誰が私の噂流してんだ?

「そんな自覚はないんですけどね」

「ボクもね、事件に出くわすことあるんですよ」

「あれ、探偵さんですか?」

「まあ、見様見真似ですがね」

 そうなんですよね。探偵といっても色んな種類がいまして、素人が必要に迫られて事件を解決しなきゃいけないみたいな、そりゃいくらなんでも酷だろってシチュエーションもあるんです。なぜかそういう人が段取りよく事件を解決に導くのを何度も見てきました。ホントに初心者か? って思いますよね。絶対、普段の生活の中でめっちゃ練習してますよ。


※ ※ ※


 お酒が入ると事件の話に花が咲くじゃないですか。私とおじさんも興が乗ってきちゃいました。

「ある事件がありまして、死体がないんです。死体を消すにはどんな方法があるでしょうか?」

 おじさんが質問してくるんです。私、真面目に答えようと思って、条件を絞ろうとしたんですよ。そしたら、おじさんがスマホを出して地図見せてくるんです。どっかの山奥のマップに赤い丸がついてんです。

「この辺りがいいかなと思ってねぇ」

「ん? いいかなと思って……? 起こった事件ですよね?」

「ここはね、林道が近くにあって、この前見に行ったらたまに軽トラなんかが通るんですよ」

「え、あの、起こった事件ってことでいいんですよね?」

「こういうところに呼び出すのは難しいですかね?」

「ええと、すいません、私の話聞こえてないのかな。もう解決してる事件ですかね?」

「未解決の事件…………ですね。ちょっと巻き込まれて調べないといけないんですよ」

 なにその意味深な間は。このおじさん推理してんのか殺人の計画練ろうとしてんのか分かんないんですよ。いや、でも、こんなガヤガヤした飲み屋で殺人計画なんか話さないよなーって思ったんで、気を取り直したわけです。

「まあ、犯人としたら、ここに直接呼び出すのはムズいんで、どっかに行く途中にここを通って、で、タイヤのパンクだったり、エンストがなんかでやむを得ず……みたいな方が自然でしょうね〜」

 すると、おじさん、スマホをいじってんです。ちっちゃい声で「なるほどね」とか呟いてんです。

「なんかメモしてます?」

「いや、してないですよ。ちょっとスマホに慣れてないもんでねぇ。今のアイディアなかなかですね。……そうか、これなら、車の中で殺せばそのまま死体を運べますね」

「そうですね。まあ、それならわざわざ山奥に行く必要もないですけどね。……事件の推理してるんですよね?」

「事件の推理ですよ、もちろん!」

 急にすごい勢いで言うもんだから、思わず顔面殴りそうになりましたよね。驚かされると手出ちゃうタイプなんです、私。我慢できたことにこのおじさんは感謝してもいいと思うよ。

「それはそうと、山奥に行く必要がない、とは?」

 おじさんが興味津々で訊いてくるんです。いや、こいつ絶対プラン練る段階にいる人でしょ。せっかくいい感じに酔ってたんですけど、アルコールのカロリー全部脳みそに持ってかれてさらに強い酒頼んじゃいましたよ。

「いや、だって、車に乗ってくれるくらいならどこにでも連れてけるじゃないですか。山奥は車が少ない分、目立ちますからね」

「はー、なるほど。気をつけないとなぁ……」

 気をつけないとって言ったよ、こいつ。


※ ※ ※


 お酒飲みまくったせいで、実は私の記憶、ここまでしかないんですよね。

 お店の人に聞いたら、私、その後におじさんの顔面ぶん殴ったらしいんです。でも、私逮捕されてないですよって言ったら、こう返ってきたんです。

「あの人の荷物からナイフやらロープやら見つかって……あの後、人を殺しに行くつもりだったらしいです」

 私の暴行罪ノーカンになってて笑った。

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