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第8話 巻き込まれ体質の女がクローズドサークルで悲劇のヒロイン気取ってた

 絶海の孤島に行くと、十中八九、島から出られなくなって殺人に巻き込まれるじゃないですか。皆さんもそんな経験があると思います。

 普通に事件が起こって解決すればさっさと帰れるんで全然いいんですけど、たまになんか別のドラマ性みたいなものを持ち込む人もいるんですよ。

 私が出会った子はすごく可愛くていい子なんですけど、なんか自分に酔いしれてるところがあったんです……。


〜 〜 〜


 久しぶりに孤島に閉じ込められまして、台風だとかで迎えの船も来てくれない中で、2、3人殺されちゃったんです。ありがちなことなんで、うわー面倒になったなー、なんて私は思ってたんですけど、まわりはこの状況が初めての人しかいなかったんです。

 やっぱりみんなクローズドサークルに閉じ込められると、自分が主人公になった気がするんでしょうね。張り切って事件解決しよう! とか、お前たちとはいられない! みたいな、結局テンプレみたいなことやりだすんです、みんな。久しぶりのクローズドサークルなんですけど、戻って来たんだって感慨がありましたね。なんというか、ずっと変わらないものもあるんだ的な懐かしさを感じてエモかったですね。

「鈴木さん、わたし、怖いです……」

 そんな中でひとり、めちゃくちゃ可愛い華奢な女の子が私に懐いてくれたんです。|咲希《さき》ちゃんっていうんです。これで退屈しないぞなんて思ってたんですよ、最初の方はね。

「大丈夫だよ、咲希ちゃん。クローズドサークルの事件なんて珍しくもないし、たいてい犯人ってボロを出すから、そこ捕まえたらおしまいよ」

「鈴木さんは、強いですね……。鈴木さんみたいなお姉ちゃんが欲しかったな……」

 って感じで、咲希ちゃんというのは、絵に描いたようなちょっと儚げな感じのヒロインみたいな立ち位置で喋ってくるんです。可愛いんですけど、ずっとやられると、こいつ本音で話さねータイプだなって感じちゃうんですよね。


※ ※ ※


 孤島に閉じ込められた半分くらいが殺されたあたりで、咲希ちゃんが泣いてるんです。

「どうしたの、咲希ちゃん? 全滅エンドかもって思い始めた頃かな?」

「わたし……、わたしのせいです……」

 泣きじゃくってるんであれだったんですけど、ちょっと警戒して肩を抱きましたよ。こういうか弱い感じの子って、実は犯人だったってことよくあるんでね。

「そんなことないよー。確認したいんだけど、犯人じゃないよね?」

「犯人じゃないです……。でも、わたし、昔からこうなんです。行く先々で不幸が起こるの。だから、いつもクラスの子から煙たがられてて……」

 咲希ちゃんは高校生なんです。連休中に一人旅をしてたら事件に巻き込まれたんですよ。

「気にしないで。私なんか近所のコンビニに買い物行ったら強盗に遭うし、パーティー行ったらすぐ人死ぬし、殺し屋に狙われたこともあるよ。殺人なんて日常茶飯事だから、なんか殺されてらーってスタンスでいればいいよ」

「でも、わたしなんかがいなければって思ってしまうんです……。事件が起こるから、いつも『あっち行け』とか言われて……」

「そんなこと思わないで。私なんか初対面の人に疫病神とか死神だとか言われてんだから」

 咲希ちゃんはそれでも首を振ります。

「でも、わたしがいると、みんな不幸になっちゃうんです……」

 あー、この子、是が非でも自分のせいってことにしたいタイプだ……。序盤は大人しいけど、後半になって精神が不安定になって暴走してひと波乱起こすキャラだわ。面倒くさくなる前にどこかに縛りつけとこうかな。でも、将来有望な美少女を前に、お姉さんも根気よく付き合わなければなりません。

「咲希ちゃん、ここを出てからのこと、考えよう! やりたいことたくさんあるでしょう?」

 よし、これで私はクローズドサークルでも頼り甲斐のあるお姉さんというポジションを確保できた。

「でも、私によくしてくれた朝倉さんがあんなことになって……」

 朝倉というのは、事あるごとに咲希ちゃんに近づこうとしてた男なんです。事件解決するとか言って、館の外を調査してたら怪我しちゃったんですよ。ただ、なんか咲希ちゃんといい感じの雰囲気にすぐ持って行こうとしてたやつで、あまりいい気なしなかったですね。

 たぶん、ここで運命の出会いを〜みたいなこと思ってたんでしょうけど、それただの吊り橋効果だからね。この島出て日常生活に戻ったら、急になんかちげーなとか思ってすぐ別れるんですよ。私の知り合いもクローズドサークルで出会って、生き残った時は将来一緒になろう的なこと言ってたんですけど、2ヶ月くらいして同棲してからはトイレットペーパー替えてくれないみたいなしょーもない愚痴めちゃくちゃ聞かされたからね。その後すぐ別れてました。

「朝倉さんは正義感の強い人だから、咲希ちゃんが気に病むことじゃないよ」

「でも、わたしが襲われたから……」

 この子、ひと言目にはでもでも言うんですよね……。たぶん普段は結構我が強いタイプだと思う。思い込みで行動したりするんだよ、きっと。だから嫌われてんのかな。

 ただ、彼女が襲われたっていうのも事実で、それがみんなを一致団結させたんですけどね。襲われて無事だったのは、咲希ちゃんだけなんです、なぜかね。

「咲希ちゃんが無事でよかったよ。犯人じゃないんだもんね?」

「犯人じゃないです……。でも、わたしが無事で他の人が殺されてしまって……どうしてわたしじゃなかったの……」

 荒れ狂う海を見つめて咲希ちゃんが浸ってます。殺されかけて、男から言い寄られて、自分きっかけでみんな団結して……、ああ、こりゃあ、気持ちいいだろうね。

 咲希ちゃんは私を振り返って目を細めるんです。

「鈴木さん、わたし、帰ったらやりたいこと、見つかりました……。犠牲になられた皆さんのご家族にご挨拶をして、その心に寄り添いたい……」

 もうこれは自分がヒロインだって確信してるよね。しかも、自分が生き残ること前提で話してるよね。

「そうだね。そのためにもこの島から出ないとね。咲希ちゃんは犯人じゃないんだもんね?」

「犯人じゃないです……」

 結論からいうと、咲希ちゃんが犯人だったんで、ぶん殴って島から脱出しました。最後まで朝倉がヒーロー気取りでギャーギャー喚いてたんで、うるせーって怒鳴りつけたら半ベソかいてた。

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