第6話 いちいち犯行の動機を聞かれたがる犯人がウザすぎて早く帰りたい
ミステリーだと解決編の終盤で犯人が動機を話したりして、それがちょっと泣けるみたいなのがあるじゃないですか。私からしたら、人ぶっ殺しといてなに語ってんだよって感じなんですけど。
でもまあ、感動するならまだマシじゃないですか。
この前会った女はホント最悪でした……。
〜 〜 〜
「はぁ……、そうです。あたしがやりました」
若干怪しかったんでちょっとだけつついたら、犯人の女がいきなり罪を認めたんですよ。うわ、早く帰れるーと思って嬉しかったんですね。郵便局行きたかったんですよ。
「よかった。じゃあ、警察に──」
さっさと切り上げようとしたんですけど、女が喋り始めるんです。
「はぁ……、あんなことがなければ、私があの人を殺すことなんてなかったのに……」
チラチラこっち見るんです。いや、話したいなら話せ、と。サッと喋ってサッと終わらせたかったんですよね。あと、いちいち深いため息つくところが生理的に受け付けなくて、もうこの時点で早く帰りたかったよ。
「ええと、何があったんですか」
「はぁ……、これはあたしの胸の中にしまっておきたかったんですけど……。まあ、そこまでおっしゃるならお話しします」
「すごく喋りたそうにしてたのはそちらだと思いますけどね」
「あたしの勤めてるデザイン会社、年に1回都内の展示会にひとつだけ作品を出品するんです」
動機部分だけパッと喋るんじゃなくて、周辺情報から始めるタイプだ、と思って絶望しました。もう16時過ぎだったんです。郵便局って17時までじゃないですか。
「はぁ……、その出品作品はどうやって選ばれると思いますか?」
出たー。わざわざクイズにしてくるタイプのやつ。自分ひとりで完結しろよ。まあ、いちいち突っかかっても長引くんで、大人しく首を捻っておきました。こういう手合いは喋らせとけば勝手に気持ちよくなって終わるんでね。
「はぁ……、社長が社内コンペで選ぶんですよ。でも、あの人、どうしてたと思いますか?」
クイズの間隔が狭すぎてイラッとしちゃったんです。
「分かんないです。あの、私、この後に郵便局行きたいんですよ」
「はぁ……、あの人は、いや、あいつは、社長に取り入って社内の出品枠を奪ってたんです。なんであたしがこんなに怒ったと思いますか?」
「うん、分かんない。郵便局の話聞いてた?」
女はため息をついて夕日が差し込む窓に近寄るんです。なにちょっと雰囲気漂わせてんだよ? 犯人になったからってこの場の主人公気取りか? なんで郵便局17時までなんだよ。
よく考えると、この事件、不可解なところがあって、被害者は公民館の高い天井から吊られてたんです。機材を使った形跡がなくて、どうやったのか全く不明だったんですよね。
展示会に出品するとデザイナーとして人脈が広がって夢が叶うみたいなこと言ってる女を遮って尋ねました。
「あの、どうやって被害者を吊り下げたんですか?」
「どうしてあたしが夢を叶えたいと思ったと思いますか?」
「いや、今は私が聞いてんの。どうやってやったのって。しかも、夢叶えたいのは普通のことだから、聞くまでもないのよ。郵便局に振り込みに行きたいの。ゆうちょ銀行からの振り込みしか対応してないから」
「はぁ……、あの人の勝ち誇った顔が嫌いで」
「ねえ、そのため息やめて。さっきからはぁはぁうるさいのよ。知らないの? 幸せ逃げんだよ」
「あたしの夢をあいつは知ってたんです。あたしの夢、知りたいですか?」
「うん、なんかもう、イライラしてこのままだと被害者があなたに嫌がらせしてたことに同情しそうだからやめて。そして早く天井から吊り下げたやり方教えて。郵便局行きたいから」
「あたしの両親は優しい人でした」
「そのエピソードゼロみたいなの要らねーんだよ! 天井から吊り下げた方法教えて!」
「湖畔の家を買ってそこで絵を描く生活をしたいねなんてみんなで話してたんですよ」
「湖畔の家なんか不便だろうね。普通に都会に住めば? 郵便局すぐ行けるし。郵便局すぐ行けるように死体吊るした方法言って。ぶっちゃけ動機とかどうでもいいんだわ」
「あたしの夢はその湖畔の家を買うこと。だけど、あいつはその夢を笑ったんです」
「おい、意地でも教えないつもりか! 分かった分かった。そこまで喋りたいなら出所してから自叙伝出せ! 私が買ってやるから! で、その印税で湖畔の家買えや!」
もう喧嘩ですよ。普通ならここまで言われたら折れるじゃないですか。女は力なく微笑むんです。
「なんであいつはあたしの夢を笑ったと思います?」
こいつ殺してやろうかなって思いましたね。
でもね、めっちゃ巻いて口割らせて郵便局行きました。17時まで5分くらい余裕あるの。私、すごくない?
郵便局での振り込みって16時までなんだね、クソが。