第4話 怪盗が盗みの予告状を出してきたんだけど、たぶん送り先を間違えてる
皆さんの家にも怪盗の予告が来ることがたまーにあると思うんですけど、幸いなことに、ウチにはそういうのがきた試しがないんです。
私にもありがたいことに、|頼光寺《らいこうじ》っていう10年来の女友達がいるんですけど、その子の家に怪盗からの予告状が届いちゃったんですよ。
いまどき予告状って、よっぽど頭がおめでたい奴なんでしょうね……。
〜 〜 〜
「カラオケの一発目にサライ歌うみたいなことになってたのよ〜」
「そりゃあ、ちょっと飛ばしすぎだよね〜」
なんていう小粋な会話を彼女の自宅でしてたんですけど、インターホンが鳴ったんです。どうやら簡易書留が届いたみたいなんですよね。
戻ってきた頼光寺が封筒を手に戻ってきたんです。
「ねえ、鈴木」
「なに、頼光寺?」
私たちはなんとなくずっとお互いを苗字で呼び合っているんです。
「あんた、よく変なことに巻き込まれてるじゃん?」
「うん、まあね。この世はイカれた連中のパーティーだよ」
「この手紙見てよ」
頼光寺から封筒を受け取ったんですけど、差出人の名前がないんです。簡易書留でそんなことできるのか? 怪しくないか? って話ですけど、いつものように私はこの時点では何も知らないんです。
「開けていいの?」
「うん、いいよ。たぶん同じ人からだから」
ちょっと嫌な予感したんですよ。頼光寺って結構可愛いからストーカーに遭いはしないだろうかって毎日心配してんですけど、結局私の方がアホみたいな人に出くわしてるんですよね。不平等すぎる。
「えーと、なにこれ?」
封筒の中に、新聞紙から文字を切り抜いて貼りつけた文章の手紙が入ってたんです。昭和のドラマかよってツッコミ入れそうになったんですけど、よく考えたら私、昭和のドラマ観たことないんですよね。
文面にはこうあります。
『何度も警告を送った! 警察を呼んでも意味はないということは、警察に連絡して欲しいということだと明言しないと通じないのか?』
「もう一度言うけど、えーと、なにこれ? めっちゃキレてるけど、ダチョウ倶楽部みたいなこと言ってるよね?」
「押すな押すなは押せのうちってやつね」
「初めて聞いたんだけど」
「いま思いついた」
「っていうか、この犯行予告みたいなやつはなんなん? イタズラ?」
「それ、怪盗からの予告状なんだよ」
「え、頼光寺んちに怪盗が?! あんたそんなお宝持ってたっけ?」
「おばあちゃんからもらった巾着袋くらいかな〜。たぶん間違えてんだと思うんだよ」
「……怪盗が盗みに入る家を間違えてんの? バカなの?」
頼光寺がクローゼットのカラーボックスの中から何通もの封筒を取り出して持ってきた。
「これが一連のシリーズね」
あまりに来すぎたせいか、何通かは未開封のままだ。これじゃあ怪盗も手紙を出した甲斐がないだろうに。
一通目に目を通すと、初々しい感じがそこはかとなく伝わってくるんですよ。なんでかって、大きな見出しの文字をふんだんに使ってるから。これを切り貼りしてた時はウキウキしてたんだろうなと思うと不憫に感じるね。
『我が名は怪盗クラウン
そなたの家に眠る≪白い|光玉《こうぎょく》≫を貰い受けに参上する
いくら警察の助力を得ようとも無駄だ
3月21日0時──そなたは絶望を手にすることになるだろう』
「なに、白い光玉って? 頼光寺ってそんなの持ってた?」
「うちにあるのはせいぜい白い恋人くらいだね〜」
「っていうか、怪盗クラウンって……! 格好つけようとしてマジで付けてる感じが溢れ出ててそれがダサさを加速させてるよね」
怪盗クラウン(笑)には申し訳ないんですけど、宛て先チェックしないからこうなるわけで。世の怪盗の皆さんもダブルチェック・トリプルチェックちゃんとしましょうね。
頼光寺もダサいと言ってました。
「これで許されるのは中学生くらいだよね〜。ここに王冠のちっちゃいイラストなんか描かれてたら確実にSNSネタ行きだよ」
「しかも、この日付って、2ヶ月くらい前だよね?」
「うん。返事も出せないからさ、シカトしてたら勝手にキレ出して、予告の日もどんどん後ろ倒しにしてくるんだよ……」
「さっさと盗みに入れよ、怪盗クラウン……」
手紙の回数を重ねるごとに、切り抜いてくる文字の種類に余裕がなくなってくるのが分かって切なかったです。家で取ってる新聞が穴だらけになっちゃったのかな?
だけど、一貫して怪盗クラウンは警察を呼んでも意味はないって書いてきてるんです。もう明らかに呼んで欲しそう。で、さっきの手紙に至るというわけ。
私も色んな事件に巻き込まれてきたせいである程度の勘が働いてきたんですよ。だから、なんとなく分かっちゃったんです。
「これって警察がいる時に忍び込んで、警官の姿になって姿をくらますってトリックをやりたいんじゃないかな?」
「うわー、古典的……。でも、そうか、だから、警察が来るまで白い恋人盗みにいけないんだ」
「白い光玉ね。お菓子盗んでもしょうがないでしょ。まあ、プランBも思いつけない奴に怪盗なんて無理でしょ」
怪盗クラウンの意図が分かったところで、私たちには何もできないわけでして……。もう手紙もすごい量になってきたってことで、捨てることにしたんです。
でも、もったいないんで、お酒に酔った勢いでSNSにツッコミつきで投稿したらわりとバズったんですよ。それからは手紙も来なくなったみたいです。