第2話 デスゲームの運営が現場で儲けようとしすぎてた
皆さんもたまにデスゲームの現場に入っちゃうことあると思うんですけど、この前のデスゲームの運営が最悪でした。
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むしゃくしゃして、隠れ家的なバーで死ぬほど飲んでたんですけど、急に眠くなっちゃいまして、目覚めたら真っ白な部屋だったんです。
デスゲームの現場で目覚めたら、まずは部屋の様子を観察してください。汚い感じだったら、ガチでジリ貧の状態でデスゲーム運営してたりするんで、細かいサポートとかがない可能性あります。まあ、汚いのがそういう演出ってこともあるんで、気を落とさないで欲しいんですけど。
私が目覚めたのは、真っ白な部屋。それもかなり掃除が行き届いてて、起きた時に病人が着るみたいな服を着させられてました。裸とか見られたっていうのは最悪なんですけど、つまり、衣装にお金をかけられるってことなんで、当たりのデスゲームだってその時は思ってたんです。
次々と参加者が目覚めて、施錠されたドアから何人か現れました。係員を雇ってるってことなんで、余裕のある運営をしてるわけです。モニターの中で仮面つけた人がペチャクチャ喋って説明して、それで済ましたりするじゃないですか。あれって、お金がないからなんですよ。
「これから、皆さんには生き残りをかけたゲームに参加してもらいます」
係員がそう告げると、まあ、デスゲーム初心者なんかが騒ぎ出したんですが、そのあたりは割愛します。
問題はここからなんですよ。
ゲームのルールを説明されたんですけど、めっちゃ複雑。しかも、戦略性もある感じで、かなり頭を使う系のゲームだったんです。
簡単にいうと、最後まで生き残った人が1億円を手に入れられるってことなんです。
さすがの私も戸惑ってたんですけど、別の係員がキャスター付きのテーブルに私たちの荷物を乗せて持ってきたんです。
「君たちの荷物がここにある」
バラエティ番組だと、楽屋の荷物をスタジオに持ってこられて、バッグの中身を公開されるみたいなひと昔前のノリだと思うんですけど、誰もそんなツッコミを入れてませんでした。きっとみんな余裕がなかったんでしょうね。かわいそう。
なんだろうと思ってたら、係員が言うんです。
「さっきのルールをまとめたガイドブック、1800円でーす」
耳を疑いましたよね。私もなんですよ。
「どういうことなの!」
参加者の綺麗な女の人がめっちゃ高圧的に係員に詰め寄りました。いいぞ、と思って見ていると、係員が続々とグッズを出してくるんですよ。
「初心者向けの攻略本は3200円でーす。これは終盤の方の展開については書かれてないので注意してくださーい」
「おいおい、なんだよ! 昔のVジャンプ系の最速攻略本みたいな商売しやがって!」
無精髭のおじさんがめっちゃ絡んでた。過去に嫌な思い出でもあったのかな?
「今回のデスゲームのロゴ入りTシャツやスマホケースもありまーす! 今回だけなんで記念にどうぞ〜!」
これから死ぬかもしれないのになんの記念なんだよ? なんて思ってたら、売り場の雰囲気が変わってきたんです。…………っていうか、まずデスゲームで売り場ってなにって話なんですけどね。
「この施設内のマップが見られる端末、1泊2日で5400円です。便利ですよ〜」
なんでレンタルもやってんのよ? っていうか、何日拘束されるのかも分からなくてそれが一番怖かったです。
話を聞くと、施設内の宿泊部屋もグレードがあって1泊単位で予約できるらしいんですよ。
ペットボトルの飲み物とかは500円とかだったんで、思わず、富士山の8号目か! ってツッコミ入れそうになりました。
ここで私、分かっちゃったんです。
こいつら、デスゲームでグッズ販売とかして儲けてんだ、って。映画だけじゃ稼げないからフードも売ってますってシネコンみたいなことしてるんですよ。シネコンは仕方ないけど、デスゲームって。怪しいと思ったんですよね、いまどきデスゲームなんて儲かるわけないのに。少子化だしね。
一番腹立ったのは、15000円もするチケットなんです。
「このチケットを買うと、この施設から出られまーす!」
もうね、みんなめっちゃキレてました。
「攻略本いらねーじゃねーか!」
「なんで1泊12万のスイートルームが埋まると思ったのよ!」
「じゃあ、Tシャツ買おうかな……」
でも、払わないとデスゲーム始まっちゃうんで、みんなチケット買うんですよ。しかも、ここで初めて会った同士でお金の貸し借りしてんの。
私はいい加減呆れちゃって。みんなチケット買って出て行くんですよ。
最後に私だけが残っちゃって。
「あの、お姉さんはチケットどうですか? 早く買わないとデスゲーム始まっちゃいますよ?」
いかにもあなたの味方ですよみたいな口振りにイラッとしたんですけど、私、我慢しました。大人なんでね。
「私一人しかいないんですけど、さっきのルールだと、私、1億もらえるんですよね?」
そう言うと、係員が固まっちゃったんです。で、コソコソ話し始めてんです。思わず訊いちゃいましたよね。
「あの、こんなザルみたいなルールで今までやってたんですか?」
係員のリーダーみたいな人が、ひと通りのグッズを抱えて私の前にやってきました。めっちゃ申し訳なさそうで腰が床にめり込みそうなくらい低いんです。
「申し訳ないんですけど、グッズ差し上げるんで、お帰りいただくことってできますか……?」
ある程度の規模はありそうな運営だったので、ここで角が立つようなことをすると後がめんどいと思ったので、グッズで手を打つことにしたんです。
「目の前のお金を稼ごうとしすぎててキモいですよ」って帰り際に言ったら、すんごい苦笑いが返ってきて、マジで何も考えてなかったんだって思いました。たぶん、今頃は潰れてんじゃないかな?
意外とデスゲームの運営って融通が利くんで、皆さんも粘ってみるといいですよ。
もらったTシャツなんですけど、ロゴはダサいんですけど、わりといい生地なんで寝巻きに使ってます。