第9話 残念がる妹と嫌がる姉
「そう言えば叔父貴はどうしたんだよ。叔父貴の鎧は地球製の国宝級の代物だぞ。それこそ傷でもついたら一大事だ。それに茜はどうしたんだ?アイツも時代行列だけは付き合うって言ってたじゃねえか。姿が見えねえとはどういうことだ」
流鏑馬で観客を唸らせた司法局実働部隊隊長嵯峨惟基特務大佐。彼はかなめの家の養子として育ったこともあり、かなめはいつも嵯峨を『叔父貴』と呼んでいた。しかしその口調にはまったく敬意は感じられない。誠も『駄目人間』である嵯峨に隊を率いる指揮官としての敬意を感じたことは一度も無かった。
「ああ、惟基君は外で整備班の胴丸を脱がせてたわよ。それに茜さんは自分で脱げるからって、最初に鎧を脱いでもうすでに着替えを終えているはずよ」
ちょうどそんな噂の茜とかえでが司法局の制服で更衣室に入ってきた。
「なんだ、かなめお姉さまはもう脱いでしまったのか……僕が脱がして差し上げれば……いつもは僕が脱がされてばかりなのだから、たまには僕の方から奉仕させていただくことが出来ればよかったのに」
ぼそりとつぶやいて瞳を潤ませて自分を見つめるかえでにかなめは思わず後ずさった。
「神前君、あなたも着替えなさいな。それと薫さんも作業が続いて疲れたでしょうから私(わたくし)が代わりますから休んでいてくださいな」
そう言って茜はアメリアの左腕の小手を慣れた手つきで外しにかかった。
「そうね、誠。外に出てなさい。ここは女の子ばっかりだから、あなたの居る場所では無いわ」
薫はそう言うとあらかた片づけを終えた誠に本部から出て行くように言った。
「いいんですよお母様、私は見られても恥ずかしくないし、同じ屋根の下で暮らしている以上いつみられても別に……ごぼ!」
満面の笑みを浮かべて話し出した胴を脱いだばかりのアメリアの腹にかなめのボディブローが炸裂した。
「神前、邪魔だ!出てけ。アメリアの下着姿で欲情するテメエをアタシは見たかねえ」
そう言ってかなめはまた部屋の隅に戻り、カウラが着ていた大鎧を油紙に包んだ。さらに奥のテーブルで制服姿のカウラと談笑している大鎧を着たままのサラとパーラの冷たい視線が誠を襲った。
「それじゃあ着替えてきますね」
そう言って誠は二月の寒空の中に飛び出した。