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第190話 誠のためらい

「みなさん、喧嘩は止しましょうよ」

 険悪な雰囲気に耐えかねて、気の弱い誠はそう叫んでいた。

「喧嘩の原因を作ってる人間が良く言うな。オメエがはっきりしねえからこうなってるんだろうが!オメエがはっきり『許婚なんて認めない』と一言いえば済む話なんだ!それともあれか?この生涯未婚率80パーセントの国で『許婚』が居る幸せに浸ってるのか?慣れねえモテ男を気取るのも大概にしろ!」

 止めに入った誠に最初に怒りをあらわにしたのは意外なことにかなめだった。

「オメエが『特殊な部隊』に居るのは誰のおかげだと思ってんだ?アタシだろ?アタシがあの時オメエを止めなければ今頃はどこかの組織がオメエの法術の能力を利用するために実験動物にでもなっていた。それを止めてやったアタシを差し置いて、かえでと結納?笑わせてくれるねえ!」

 かなめはそこまで言うと、カレーを一気に口に流し込んだ。

「確かにかなめちゃんの言うことも一理あるわね。私達三人は誠ちゃんがこの部隊に入った時からの付き合いなの。それを横から出てきてはい、『許婚』でございます。なんて私は認めない。カウラちゃんもでしょ?」

 強い調子のアメリアの言葉を受けたカウラは一瞬戸惑ったように誠の顔を見た。

「私は……私は……」

 カウラは戸惑っていた。自分の心とかえでをはじめとするこの場に居る人々の思いがあまりに違いすぎることにどうすればいいのか分からずにいた。

「日野少佐。とりあえず、お時間をください。僕はモテない宇宙人である遼州人です。こういう状況には慣れていないんです。ですので、自分と言うものが良く分かるようになるまで待っていただけませんか?」

 誠ははっきりとそう言った。その言葉にカウラは自分の心が決まったかのように誠の顔を見つめた。

「神前。よく言ってくれた……私も私の気持ちが良く分からない。その結論が出るまで日野少佐には待っていただきたい」

 カウラはようやく自分の言葉で自分の気持ちを表すことが出来た。このような経験はカウラにとっては初めての事で、カウラ自身が驚いていた。

「良いでしょう。私も神前曹長から強引な女だとは思われたくない。お待ちしましょう……ただし、神前曹長の童貞だけは僕が貰うつもりです。そのことだけはお忘れなきよう」

 そう言ってかえでは誰もを魅了してきた妖艶な笑みを浮かべて誠を見つめた。

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