第188話 意外に普通の歓迎
「お姉さま、失礼ですが、この時間となりますともうお昼はすまされましたか?」
広大な応接室に通された誠達に向けてかえではそれも当然と言うような自然さでかなめにそう尋ねた。
「あの渋滞地獄の首都高で何を食えばいいって言うんだ?この年末渋滞でパーキングエリアも入り口が大渋滞だ。食おうにも食い物も食う場所もねえ」
かなめは相変わらず不機嫌そうにそう言うと刺繍のあしらわれたソファーに身体を沈ませつつそう答えた。
「実は、先日薫様に神前曹長の好物を聞いてきてね、それを出したいんだがいかがだろう?僕にも神前曹長の『許婚』としての庶民的な雰囲気があると理解してもらえると思うんだ」
かえではそう言うとそのまま奥の扉の前に立っていた入り口で立っていたメイドとは別のメイドに向けて目くばせした。
「神前の好物?何だよそれは。それとこの屋敷で何食っても『庶民的』にはならねえと思うぞ」
かなめはあまりに立派過ぎるソファーやテーブルに遠慮して立ったままの誠、アメリア、カウラ達に向けてそう言った。
「一応……カレーでして……。母のカレーもそうですが、寮のカレーもまた格別でして。ああ、いわゆる高級洋食店に出てくるようなのは駄目ですよ。あれは『ライスカレー』で『カレーライス』じゃないと言うのが僕のこだわりです」
あまりにも普通なので誠は遠慮しながらかなめにそう言った。その言葉にかなめがげんなりした表情を浮かべるのを誠とアメリアは見逃さなかった。
「カレーだ?そんなに寮のカレーが好きなのか……ああ、確かに旨そうに食ってたもんな。寮のカレーは以前いた西モスレムのエースだった人が特別にこしらえたルーを使ってるんだ。下手な洋食屋のそれより旨いぞ。それよりかえで、今日はカウラを歓迎するんじゃねえのか?それとも久しく嗅いでいない雄の匂いに誘われてメイドが盛ってるのがそんなに気になるのか?」
かなめは下品な笑みを浮かべながら下品な内容を下品な口調でかえでに言った。
「いいえ、そんなつもりは無いですよ、お姉さま。確かにあの子達が雄の匂いに惹かれているのは事実ですが……そう言う僕も……」
そう言ってかえでは誠を見つめて怪しげな笑みを浮かべた。誠は思わず背筋に寒いものが走るのを感じた。
その時、一人のメイドがドアを開いて現れた。
「お食事の準備、できております」
メイドの言葉を聞くとかえでは再びいつものさわやかな笑顔に戻ってメイドが開いたドアへと足を向けた。
「では食堂に向いましょう。うちのコックも腕によりをかけて最高のカレーを用意してお待ちしておりますので」
かえではそう言うと誠達をドアの中へと招き入れた。そこには廊下があり、しばらく行くと扉の前にメイドが立っていて誠達が着くとそのままそのドアを開いた。
二十人は座れるのではないかと言うような大きなテーブルが中央に置かれ、そこに誠、カウラ、かなめ、アメリア、かえで、リンの分のカレーが置いてあるのが見えた。
「さあ、準備は出来ております。席にお付き下さい」
カウラの車を車庫に移動させていたリンが戻ってきていて、誠達を食堂に招き入れた。誠達はリンに促されるままにそれぞれの席に腰を下ろした。