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第50話

「あっはい、いましたよー双葉。ギルドって何すかー?」アカギツネは明るく訊いた後「あっ双葉はもういませんから大丈夫っすよー」と補足を付け足した。
「いなくなった?」レイヴンが訊き、
「逃げたの?」コスが訊き、
「うわ、どこへ行ったの?」キオスが訊き、
「ふん、ウィルスポーターが」ディンゴが低く毒づいた。
「ウィルスポーターって、何?」オリュクスが最後に訊く。
「あ、逃げたんじゃあないっすー」アカギツネは説明した。「ぼくが一瞬ぱくって咥えてー、まあ分解されたくないんですぐに口からだしたんすけどー、そうすることでー、ぼくの持ってるウィルスがー、やっつけたっすー」
「──ウィルス」レイヴンは声を震わせた。「狂犬病、ウィルス?」
「そっすねー」アカギツネは軽く頷く。「あいつ、なんか哺乳類の作る分子が好みの味らしくってー、いっつも哺乳類にばっかり取り付きたがるんすけどー、なんかタイム・クルセイダーズいたからー、あっギルドってタイム・クルセイダーズのニックネームっすかー?」ご機嫌な様相で語る。
「あ、うん」対してレイヴンは視線を揺らめかし、落ち着きを欠いていた。「まあ、そんなところかな」
「っすかー、あいつらの作る分子、えっらい不味いらしくってー」アカギツネは再度説明を続ける。「ウィルスの奴いま具合悪くてー」
「あ……じゃあ、その狂犬病ウィルスが、その、双葉を……食べたって、こと?」レイヴンは怖れおののきつつも確認した。
「そっすねー」アカギツネの返答はそれまでと変わらぬトーンで返された。「あっ、でもっすねー、ぼくにはあんま近寄らない方がいいかもっすー」
「そ」レイヴンはそこではっと息を呑んだ。「そう、だね……そうするよ」助言に従い、収容籠を抱きかかえたままそっと背後に退く。「オリュクス、君もこちらへ」
「ウィルスポーターって、何?」一人問いかけに回答をもらえていないオリュクスは、もう一度ディンゴを見て問いかけつつ、レイヴンの言葉に従って数歩退いた。
「こいつはな」ディンゴが鼻先を一瞬だけアカギツネに向け、すぐに逸らした。「俺らの命を容赦なく奪うウィルスを、体の中に飼っていやがるんだ。こいつに噛まれたら最後、誰も助からない」
「えっ」オリュクスは飛び上がって驚き、
「そうか、そういうことか」コスとキオスも戦慄の声を挙げた。
「ぼくの仲間が、アカギツネ……さんには気をつけるようにと忠告してきたんだけれど」レイヴンは少し気後れしながらも確認した。「それはやっぱり、そのウィルスについての注意呼びかけだったのかな?」
「そっすねー、たぶん」アカギツネは軽く頷いた。「まあつっても、ぼくらの種族が全員ウィルス持ってるわけじゃないしー、持ってる者にもいろんなタイプの奴がいるっすからねー」
「いろんなタイプ?」レイヴンはさらに確認する。
「そっすー」アカギツネはまた頷く。「ぼくとかはー、むやみやたらにウィルスを他の哺乳類に取り付かせたりしないように気をつけてるっすけどー、中にはわざと噛みついて感染させてやろうとするー、やばい奴もいるっすからねー」
「ふざけるな」ディンゴが唸る。「どういうつもりだ」
「やー、うちらも生き延びるのに必死なんすよー」アカギツネは申し訳なさそうに肩をすくめる。「まあ、ディンゴさんの仰りたいことはわかるっすよー。うちら外来種なのにー、今もうめっちゃはびこりまくってるっすからねー」
「当たり前だ」ディンゴが叫ぶ。「とっとと出て行け」
「それができりゃ苦労はないんすよー」アカギツネはすくめた肩をゆすって笑う。「うちらもここに来たくて来たわけじゃないしー、来たからには生存本能に抗えないっすからねー」
「貴様らのせいで餌が減ってるんだ」ディンゴはさらに声を荒げた。「好き放題喰いまくりやがって。お陰で我々在来種はどんどん減っていく、そして狙われるんだ、タイム・クルセイダーズに」
「まあ、だからぼくとかはー、双葉見かけたらぱくってー」
「それに餌がないからこの先にある小屋につながれた牛なんかを喰うと、俺たちはすっかり害獣扱いされている」ディンゴは空に向かい遠吠えをするかのように嘆いた。
「えっ」オリュクスが目を丸くした。「牛喰うの?」
 空はといえば、そろそろ辺りが青白く染まり始めていた。

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