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第七話 漂着

 瞼を照らす強い陽射しで鄧艾は眼を覚ました。

「此処は何処だ? 見た所、砂浜と桜の木、そして甘寧水軍の所有していた残骸の漂着物か……。先ずおいらの持ち物を確認するか……」

 持ち物と漂着物で使えそうなのは、お金六十二銭、火打ち石、半弓一張り、矢八本、刀剣一振り、小袋三袋、そして、今迄溜め込んだ銭で何とか作成し、甘寧を敗北させた雷銃一丁、玉十二個を確保出来たのは嬉しいが、火薬は使えなくなっていた。

 とりあえず、太陽の位置と風向き、地形を見て日本では無いらしい……。


 暫く歩くと貝を拾っている約三十人程の童達に遭遇した。

 童達は鄧艾に気付くと集まり、持ち物を奪おうと襲って来たが、面倒事に巻き込まれない為に巧みに躱して逃げた。

 黄忠、甘寧、周瑜に勝利した俺が童に襲われて逃げる事になるとは、悲しくて涙が出そうだ。

 やがて漁村が見えたので、漂着場所の特定、他に嵐から生き残った者が居ないか? そして体力を回復する為に水と食料を分けて貰う事にした。


 だが、漁村に着いた時、普通の村ではなかった。

 如何にも海賊、山賊、詐欺師、賭博屋等、どうやら無法者達の村らしい。

「良い物を持っているな小僧! 皆、小僧を捕らえて身ぐるみ剥いでしまえ!」

 直ぐに囲まれ体力を消耗していた鄧艾は捕られ、裸にされて連行され牢屋に入れられた。

 かなり時が経ち夜になると僅かな粥を与えられ、ある場所に連れて行かれる。

 その場所とは?

 大きな檻に入れられ、その後に虎が一頭が居た。

 そして檻の周りには無法者達が酒を飲み、女を抱き、賭博までしていた。

「「「殺せ!」」」

「「「喰らえ!」」」

「「「死ね!」」」

 俺が喰われて死ぬのを楽しみにしているのだろう。

 虎は直ぐに襲い掛かって来た。

 だが、俺は体力が少しは回復がしている。

 至近距離まで迫り牙が顔に当たる瞬間、虎の眉間目掛けて右手を突き出し発勁を放つ!

 虎は反対側の檻に吹き飛ばされ、無法者達は意外な結果に驚愕した。

「凄えぞ小僧!」

「何もんだ!」

「化け物だ!」

 すると無法者達の中でも一番偉そうな若い虎の毛皮の服を着た肌の露出の多い、胸が牛の乳程ある美しい女性が現れた。

「童。名を名乗れ」

「おいらの名は鄧艾だ」

「あの水賊の甘寧に勝利した童の名は鄧艾だったな……。私は中華一の武人、呂布(りょふ)の娘の呂麗蘭(りょれいらん)。鄧艾よ。そなたを客人として迎える。野郎共良いな!」

「おおお――!」

「鄧艾! 鄧艾! 鄧艾!」

 無法者達は幼い童の武人に歓喜した。

 果たして呂麗蘭は何故? 鄧艾を客人に迎えたのか?




 呂麗蘭(二十三歳)








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