第四話 女難
荊州の長沙から
そんな時、突然、鷹の様な鋭い女の声で。
「曹操か? 劉表の間者が何を調べている! この
と、見た所十歳位の少女が虎の様に獰猛に襲いかかるので、思わず生命の危機を感じて咄嗟に持ち歩いている木の枝で秘剣にしている筈の上泉流奥義、一の太刀で三節棍を長江の河に弾き飛ばしてしまった。
すると、孫尚香は怒りの余り顔が赤くなり。
「亡き父上から頂いた形見の三節棍をよくも河に沈めたわね。許さない!
黄忠と同じか? やや年齢の近いと思われる
正直、黄忠に匹敵する歴戦の武将で有ろうが、強すぎて手加減が出来まい。
船の客達はこの闘いを肴に賭博するらしい。
鳳統は迷わず全財産を俺に賭けた。
黄忠と魏延は立ち会い人もしくは見物らしい。
二振りの刀剣を縦横無尽に振り回しながら黄蓋は迫って来るが、これは一ノ太刀だけでは厳しい。
ならば!
俺は忍び足で撹乱、更に石を投げて印字打ちし、少しづつ負傷させ、懐に飛び込み一ノ太刀を仕掛けた。
頭部に二振りの刀剣が迫って来る。
だが、刀剣は空を切った。
一ノ太刀を警戒して僅かに踏み込みが甘くなるのを計算して頭部を更に下に勢いを付けて股間に頭突きしたのだ。
黄蓋は余りの激痛で仰向けに倒れた。
孫尚香は信頼する爺が殺されたと勘違いして落ちていた刀剣を一振りを握り締めて再び襲い掛かろうとしたが。
「お嬢! 止めなされ! この黄蓋に武人の恥を欠かせないで下され」
「しかし、爺!」
「儂に勝利した技は
「はい。そうです」
「まさか、五体全部発勁を放てるのか?」
「はい」
鄧艾は一ノ太刀を更に昇華させて自己流の発勁という中華武術の奥義を会得していたのである。
「童よ。名を教えて下さらぬか?」
「鄧艾と申します」
「孫家に仕えぬか? お主は素晴らしい才を持っている。もし、断るならば殺さねば成らぬ」
「成らば殺してみろ! 孫家も共に滅びるぞ!」
「わっはっは。実に剛毅! 誠に愉快! 気に入ったぞ。お嬢! この者の嫁に成りませぬか? 嫁ぐだけの価値がございますぞ!」
「爺! 孫家の姫である妾が素性の解らぬ童に嫁ぐなど在りませぬ! 鄧艾! あなたを必ず殺すわ! 殺してやる! 良いわね!」
と、言い放ち孫尚香と黄蓋は去って行った。
こうして、鄧艾は孫家に良くも悪くも目を付けられてしまった。
孫尚香(十三歳)黄蓋(五十一歳)