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第二話 私塾

 おいらは水鏡先生の私塾のある邸宅で学ぶ事にした。

 私塾には十人程の青年達が議論していた。

「中華統一はやはり河北(かほく)を制する勢いである乱世の奸雄(かんゆう)曹操(そうそう)ではないか?」

「否! 江東(こうとう)孫権(そんけん)には周瑜(しゅうゆ)を始め優れた人材がいる孔明! そなたの兄、諸葛瑾(しょかつきん)もその一人ではないか!」

「龐統よ……。孔明が困っている。この徐庶は新野に居る劉備の器量を品定めに行き、曹操や孫権に匹敵するならば仕官するのも一興だな」

 と、塾生が話していると、水鏡先生がおいらを伴い。

「皆、紹介したい者がおる。鄧艾という中々の知略を持つ幼い麒麟児(きりんじ)だ」

 すると、塾生達は鄧艾を観て品定めした。

「先生、耄碌するには早く無いでしょうか? この童が麒麟児だとは。わっはっは」

 だが、三人の青年、武人の雰囲気を持つ優男の徐庶、知性を秘めた無精髭の醜男の龐統、神の様な神々しさを持つ優男の孔明は笑わず冷静においらを観察していた。

 面白い。

 おいらは、先輩方に喧嘩を売る事にした。

「先輩方。中華は一人の君主で纏まるのは、まだ、時期尚早、確かに河北を制する勢いの曹操は一番有力ですが、北の兵では、江東に侵攻した時に、病や船戦で孫権に敗れるでしょう」

「面白い、見込みがあるな鄧艾、この龐統の話す通り孫権が中華統一をするのか?」

「それは違います、中華中央の荊州に乱れがあるのでしょう。多分、大半は劉備が荊州を治め、西の益州(えきしゅう)を得れば、曹操、孫権に対抗出来ます」

 内心、孔明は驚いていた。

 自分と同じ事を考えている事に……。

「ですが、天下三分の計が最も確実ですが、おいらは別に四分の計でも良いと思います」

「残り一人とは?」

「おいらが残り一人になりたい!」

「わっはっは」

「面白い」

「気に入った」

「第二の乱世の奸雄」

「おいらは表裏比興の者だよ」

 孔明は宿敵を見つけた様な、徐庶は気まずそうに、龐統は愉快に、他の者は笑いながら鄧艾を認識した。



 

 三年後、鄧艾は己の野望を叶えるべく、優秀な人材を配下にする為、春のとある早朝、美しい朝日を浴びながら旅立とうとする鄧艾の前に龐統が旅支度してやって来た。

「よ! 鄧艾。儂は心底、お主が天下四分の計を実行できるか興味が湧いた。故に共に行こう」

「ありがとうございます。龐統師兄(しけい)。おいらの軍師として心強く思います」

「だが、気を付けろよ鄧艾。同じ師兄でも孔明は多分、生涯の宿敵になる。良くも、悪くもお前の才を見抜いていたからな……。で、まず、何処に行く?」

「荊州南部に向かい、人材探しと地形を知りに行きます」

 こうして、鄧艾(八歳)と龐統(三十二歳)の旅が始まった。



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