第102話 盗聴する女達
「どうぞ、かえでさんは高貴な身分の方ですから、うちみたいな庶民のお菓子がお口に合うかどうかは分かりませんが。かえでさんのお母様の康子さんも口が超えていて中々私の料理は気に入ってくださらないのよ。困ったものね」
客間に案内されたかえでとリンに薫は得意の揚げ餅とお茶を振舞った。
「いえいえ、この東和に来てから庶民の生活を知るにしたがってその楽しさと言うものが分かってきたような気がします。庶民の味にも我が隊の副隊長であるクバルカ中佐に紹介していただいて色々触れることが出来ました。きっとこれもおいしいでしょう。特にお母様が作ったとなるとそのおいしさも格別なものとなることは請け合いです」
そう言うとかえでは揚げ餅を口に運んでバリバリとその歯ごたえを楽しんだ。
その様子を誠、かなめ、アメリア、カウラは隣の部屋から覗き見ていた。
「かえでの奴、絶対自分の変態性を隠そうとして結局は暴露して薫さんを呆れさせるぞ。アイツはアタシが調教した根っからの変態だからな。その変態的嗜好は折り紙付きだ。そうなれば『許婚』の話はパーだ。ざまあみろ」
薄笑いを浮かべながらかなめはそうつぶやいた。
「なによ、かなめちゃんもかえでちゃんが誠ちゃんの『許婚』ってことが気に入らないんじゃないの。だったらお姉さまの言うことは何でも聞いてくれるかえでちゃんに『アタシは反対だ!』って一言いえばいいだけじゃないの。そうすればかなめちゃんの言うことなら何でも聞くかえでちゃんも諦めてくれるかもよ」
アメリアは呆れたような調子でかなめに向けてそう言った。
「アメリア……そんな恐ろしいことをアタシに言えって言うのか?アイツを神前の『許婚』に決めたのはお袋だ。オメエはアタシのお袋の恐ろしさを知らねえからそんなことが言えるんだ。お袋の決めたことは西園寺家では絶対なんだ。あの親父だって逆らえないんだぜ……一国の宰相がかみさんの言うことには絶対服従なんだ。その意味、分かるだろ?お袋が決めた『許婚』にアタシが反対しているなんてことがバレたらどんな目に遭わされるか……想像するだけで恐ろしい」
なぜか恐怖に震えるような表情を浮かべながらかなめはそう言ってアメリアを見つめた。
「それより、隣の方はどうなってるんだ?」
カウラはふすまに開けた穴から隣をのぞき込んでいる誠に向けてそう言った。
「別におかしなことは何も起きて無いですよ。普通に話してますよ。別に変ったことは無いような……西園寺さんが望むような展開にはなりそうにない和やかな雰囲気ですけど」
少なくとも今のところは誠にはそう見えた。かえではお土産として持って来た和菓子を母に手渡し、それに薫が頭を下げる。ごく普通のあいさつの光景がそこでは繰り広げられていた。
「ちょっと待ってろ……こいつを使うと隣の声が良く聞こえるようになる。オメエ等にもサービスしてやるから感謝しろ」
かなめはそう言うとポケットからチップを一枚取り出しそれをふすまの間に差し込んだ。そして携帯端末から延びるジャックを自分の首筋に差し込んだ。
「盗聴器ね……この携帯端末から隣の声が聞こえるわけね。考えたわね、かなめちゃん。サイボーグの身体の使い方を心得てるのにはいつも感心させられるわ」
いつもは気が使えない女扱いしているかなめの気遣いにアメリアは感謝しながら隣の会話が響いてくるだろう端末に耳を傾けた。
「かえでの奴がどこで口を滑らすか楽しみだな。アイツの事だ、自分が普通と思っていることが世間では異常だと言うことに気付いていないからな。いずれ馬脚を現す。その瞬間が来るのが……そう調教してやった『女王様』のアタシとしては最高の楽しみだ。早く自爆しろよ……『性奴隷』ちゃん」
かなめの表情は妹の失敗を確信しているので満面の笑みに包まれていた。