バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第47話

「すごいなあ、すごいなあ」ひとり感嘆の声を上げつづけるのはオリュクスだった。「この鳥さん、すごく速いよね。すいーって、すごくきれいに飛ぶよね」
「ああ……まあ、すごいけど、な」コスが注意深くながらも同意する。
「でもね、オリュクス」キオスが、その先でオリュクスが何を望むのかを予測しながら声をかける。「だからって君も、とはいかないよ」
「そういえば、ようこそ」オーストラリアツバメは変わらず8の字を描きながら思い出したように行った。「動物を探してるんだったよな、ようこそ」
「あ」レイヴンは振り向き振り向きしながらもはっとした。「そう、そうです。マルティコラスといって、その」詳細を説明することを試みる。
「そいつは空を飛ぶのか? ようこそ」オーストラリアツバメは通り過ぎた先で旋回した後戻って来ながら問うた。
「空、はい、跳びます」レイヴンは振り向きながら頷いた。
「鳥なのか、そいつは? ようこそ」オーストラリアツバメは戻って来ながら問う。
「いえ、鳥じゃありません」レイヴンは振り向きつつ答える。
「違うのか、ようこそ」オーストラリアツバメは旋回しながら言う。「じゃあ虫なのか? ようこそ」訊きながら跳び戻ってくる。
「いえ、虫でもありません」レイヴンは振り向きながら答える。
「あっ」突然オーストラリアツバメは叫んだかと思うと「ちょっとごめん、ようこそ」と言って8の字の軌道を外れ、直線を描いてレイヴンから離れていった。
「えっ」レイヴンが驚いてその方を振り向くと、オーストラリアツバメはわき目も振らずに真っ直ぐ遠ざかっていくところだった。
 一体──
「わあああ、すごい!」オリュクスが叫ぶ。「見た? 今の!」
「え」レイヴンは収容籠を見た。
「見たって、何を?」コスが訊く。
「ツバメさんが飛んで行った姿なら見たけど」キオスも不思議そうに訊く。
「違うよ、ただ飛んで行っただけじゃなくて」オリュクスはすっかり興奮している。「あそこに飛んでた虫を、飛びながらぱくっ! って、食べちゃったじゃん!」
「え」レイヴンは離れたところでやはり旋回するオーストラリアツバメを見た。
「虫を?」コスが訊く。
「跳びながら?」キオスも驚きながら訊く。
「ごめんごめん、ようこそ」オーストラリアツバメは戻って来つつ謝る。「ちょっと腹ごしらえをね、ようこそ」
「すごい!」オリュクスは収容籠の中からオーストラリアツバメを手放しでほめたたえた。「あんなに速く飛んで、飛びながら飛んでる虫を食べるなんて! すごいです!」
「え、そうか? ようこそ」オーストラリアツバメは照れながらレイヴンと収容籠の側を飛び過ぎて行き、くるりと回って戻って来る。「いやあそれほどでも、ようこそ」
「あ、あの」レイヴンは、再びオーストラリアツバメが『腹ごしらえ』に飛び去ってしまわぬうちに、用件を聞きだしておこうと決めた。「あなたは、アカギツネとディンゴの関係についてなにかご存知ですか?」
「アカギツネと」そう言いながらオーストラリアツバメは飛び過ぎて行き「ディンゴ? ようこそ」と言いながら戻って来た。
「ええ」レイヴンも今やすっかりこの鳥と対話する際のコツを体得し、適宜振り向き、また振り向きして、タイミングを見計らい言葉をかけ、また相手の言葉を聞いた。
 そのようにして彼はオーストラリアツバメから、アカギツネがディンゴのみならずオーストラレーシアの在来種である動物たちの餌を貪り尽くしていること、またディンゴは自分たちが希少種としてタイム・クルセイダーズに目をつけられる破目になったのも、そういったアカギツネの食料占有によるものだと考えていることを聞きだしたのだ。
 その間オーストラリアツバメは疲れた様子もなくずっと飛び続け、何十回となく往復し、そしてオリュクスもまた疲れた様子もなく称讃の叫びを上げ続けた。
 やはりオリュクスを外に出さずにおいてよかったかも知れない、とレイヴンは心の片隅でそっと思った。

しおり