第79話 純粋無垢な二人
「そうか……ありがとう」
エルマが不器用な笑いを浮かべた。その表情にサラが何かわかったような顔で頷いた。
「どうしたの、サラ」
アメリアの問いにサラはそのままアメリアのところまで這っていって耳元で何かをささやいた。アメリアはすぐに納得したとでも言うように頷いた。
「内緒話とは感心しないな」
カウラの言葉にアメリアとサラは調子を合わせるようににんまりと笑った。
「私が男性と付き合ったことがないということを話題にしているわけだ。サラが仕事が忙しくなる前に彼氏の一人も作らないとこの国では結婚できないと言う話をしていた。まあ、この国での結婚などと言うものは最初からファンタジーみたいなものだからな。私も諦めている」
そんなエルマの一言にアメリアとサラは引きつった笑みを浮かべた。
「馬鹿だねえ……テメエ等の行動パターンは読まれてるんだ。こんな艦長の指示で動くとはもう少し空気を読めよ。それにまだ結婚を諦めていない30女がそこに居るな」
かなめの挑発的な言葉にアメリアがむっくりと起き上がってかなめをにらみつけた。
階段をあがってきた小夏から中ジョッキを受け取ったランの言葉にカウラが大きく頷いていた。
「私達は生まれが特殊な上に現状の社会では異物だからな。仕方のない話だ。私も東和に居る限り結婚は無理だろう。ここはモテない宇宙人の国東和だ。恋愛とはフィクションであると言うのを地で行く国で結婚などと口にするのは時間の無駄だ」
そう言いながらカウラがちらりと誠を見上げた。その所作につい、誠は自分の頬が赤く染まるのを感じていた。
「これで後はお母さんと話をつめて……かなめちゃん。私は諦めて無いから、結婚。30女を舐めないでよね」
アメリアが宙を見ながら指を折っているのが目に入った。
「お母さんて……こいつとくっつく気か?そんなこと『許婚』のかえでが許さねえだろ」
かなめの一言にアメリアは頬を両手で押さえて照れたような表情を作った。
「私は無関係だからな」
カウラはそう言って烏龍茶を煽った。
「本当に楽しそうな部隊だな。神前曹長」
そんなエルマの一言に引きつった笑みしか浮かべられない誠が居た。