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ここが私達のハウスね

 ケイとシヘンは緊張して座っていた。マルクエンも若干同じ気持ちだったが、ラミッタは堂々としている。

「私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターです。あなた方にご確認をしたいことがあるのですが……」

「はい、何でしょうか?」

 マルクエンが返事をすると、ギルドマスターは話し続けた。

「先程、前線で戦っていたお二人、あなたとそちらの魔剣士の方は本当にDランクの冒険者なのでしょうか?」

 どう答えようかマルクエンが考えていると、ラミッタが口を開く。

「そいつと私は確かにDランクの冒険者ですが、遠くの地で傭兵をやっていました」

「なるほど……。それで……」

 ギルドマスターは納得したのか、していないのか、といった感じだ。

「この街の兵士長です。まずは感謝を申し上げる。そして、お願いをしたいことがあるのですが」

「私に出来ることでしたら」

 そうマルクエンが言うと、「それでは」と兵士長は話し始めた。

「恐らく魔人であるあの者が、またいつ街を襲うとも分かりません。軍を要請する間、この街を守っていただけないだろうか?」

 マルクエンはラミッタに視線を飛ばす。軽く頷くのを見て返事をした。

「えぇ、分かりました」

「感謝します」

 話が(まと)まり、議長がマルクエン達に提案をする。

「軍が来るまで長期の滞在になるやもしれません。宿屋ではなく、街にある空き家をご用意致しますので、そこでしばらく滞在して頂けないでしょうか?」

 ふむ、と思うマルクエン。悪い提案ではない。

 だが、答えたのはラミッタだった。

「分かりました」

「ありがとうございます。最低限の家具はご用意しておりますが、他に必要な物がありましたら、こちらをお使い下さい」

 手渡されたのは、ずっしりと重い袋だった。中には恐らく(かね)が詰まっているのだろう。

「では、何かありましたら、ありがたく使わせて頂きます」

 ラミッタが受け取ると、ギルドマスターが話す。

「もちろん、こちらとは別に、ギルドから報酬もご用意させて頂きますので」

「承知しました」

 マルクエンの言葉を聞いて、対面の男達は立ち上がる。

「お話は以上になります。どうかよろしくお願い致します」

 頭を下げる議長を見て、マルクエン達も礼を返し、部屋を出ていった。

「あー、何だか緊張したッス!」

「うん、私も」

 一言も喋れなかったシヘンとケイはそんな事を言う。

「冒険者の御一行様ですねー! しばらくのお住まいにご案内させて頂きます!」

 若い女性が建物の外で待っていた。制服姿を見るに、冒険者ギルドの関係者だろう。

「よろしくお願いします」

 マルクエンが言うと「かしこまりましたー!」と元気に言葉が返ってくる。



「こちらでございまーす!」

 案内されたのは二階建ての小綺麗な家だった。

「おぉ、中々いい場所じゃないかラミッタ」

「そうね、宿敵」

 案内してくれた女性がふと何かを思い出したように話し始める。

「そう言えばお名前をお伺いしていませんでした! そちらがラミッタさんで、こちらがシュクテキ? さんですか?」

 その天然な発言にラミッタは大笑いする。

「いや、違っ!! 私の名は……」

「ド変態卑猥野郎よ」

 言いかけたマルクエンに言葉を重ねてラミッタが言う。

「なるほど、ド変態卑猥野郎さん!! えーっと、良い名前ですねー」

 最大限のフォローをされ、更にラミッタは笑った。

「違う!! 私はマルクエン・クライスです!!」

「あっ、あぁー! マルクエンさんですね!!」

 思わずケイも笑い、悪いと思いながらも笑いを抑えきれず、シヘンまで笑っている。

「ちなみに私はケイ、こっちはシヘンです」

「わかりました! この家はご自由に使って下さい! 何かありましたら冒険者ギルドまでー。それでは失礼します!」

 そう言って女性は何処かへ行ってしまった。

「私はもう休みたいわ、ベッドくらいあると良いんだけど」

 ラミッタは渡された鍵を使い、家のドアを開ける。

 空き家と言っていたが、中は綺麗に掃除をされており、最低限の家具はあった。

「中々良いじゃない。二階はどうなっているのかしら?」

 階段を登り、二階を確認する。きちんと部屋は人数分あり、それぞれベッドも完備されていた。

「私はここの部屋にするわ。少し休ませて」

 階段から一番近い部屋をラミッタは選び、中へと消えていく。

「私はどこでもいいですが」

 シヘンが言うとケイも同じ様な事を言う。

「それじゃ、私はここで」

 マルクエンはラミッタの横の部屋を選び、シヘンとケイは対面の部屋になった。

 部屋に入り、一息つくマルクエン。荷物をしまってベッドの上に寝転んだ。




「マルクエンさーん? マルクエンさん?」

 部屋のノックの音でマルクエンは目が覚めた。いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。

「あ、あぁ、すみません。今、向かいます」

 ドアを開けると、声の主はシヘンだったようだ。エプロン姿が似合っている。

「勝手に作っちゃったんですけど、ご飯が出来ましたので……」

「おぉ、それはありがたい。ちょうどお腹が空いていました」

 美味いシヘンの料理が食べられることにマルクエンは喜んでいた。その様子を見てシヘンは何だか恥ずかしくなる。

 一階に降りると皆が着席して待っていた。

「遅いわよネボスケ」

「あぁ、すまん。いつの間にか寝ていたみたいだ」

 日は暮れかけてすっかり夕方だ。赤い光が窓から差し込んでいる。

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