第41話 定時に帰る『定時制中学生』
終業のベルが鳴った。
「時間だな……忙しくなるな。これからは帰る奴が増えてきそうだ……面倒だな……」
すっかりゲート係が板について来たかなめがそう言って伸びをしながら誠に目をやった。その意味するところは自分の代わりに誠がゲートを操作しろと言う意味だと誠は理解した。
「お疲れ様です」
窓の外から少年の声がした。しかし、そこに居たのは少女だった。
「アン君、報告書終わったんだ」
アメリアはすっかり女装が板について来た『男の娘(こ)』である第二小隊のアン・ナン・パク軍曹に声をかけた。今日もすっかり女子中学生を思わせるピンクのコートにいつものアンの友達『カラシニコフライフル』の入ったカバンに女子中学生が良く背負っているランドセル姿のアンが立っていた。
「いいえ、隊長から学業が一番大事だと言われてるのでまだ報告書は仕上がっていませんが帰ることにしました」
アンは明るくアメリアにそう返した。
「そうよね、まず字が読めない状態だったら報告書を作るのも一苦労だもの。頑張るのよ」
珍しく常識的な反応をしているアメリアにアンは大きく頷いて答えた。
「それと実はご相談が有るんですが……」
アンは突然真剣な表情をアメリアに向けてきた。
「いいわよ、お姉さんがなんでも相談に乗ってあげる」
いつもの事ながら無責任にアメリアはそう言ってアンに笑いかけた。
「僕、彼氏が出来たんです」
突然のアンの告白に一同は度肝を抜かれた。
「彼氏?相手の年齢はいくつだ?オメエは中学生に見えるからって相手も中学生だったりしたら淫行だぞ。その辺大丈夫なんだろうな!それと……って彼氏ってことは男か?やっぱ戦場で上官に掘られまくっててそっちに目覚めたんだな……少年兵にはありがちなことだ」
かなめは脳内がかえでによって穢されているのですっかり彼氏とアンが肉体関係にあることを前提にアンにそう迫った。
「近くの自動車工場で働いているんです。その人は不登校で学校に行かなかったから、僕のクラスで勉強してるんですよ。それに彼ももう二十歳の人ですよ。ホテルにだって二人で入っても問題ないんですから。ああ、僕はいつも身分証の提示を求められます。どうしても十八歳には見えないみたいなんで」
アンは元気よくそう答えた。一同はアンが彼氏とラブホテルに入る様を想像してげんなりとした表情を浮かべた。
「そうか……それは大変だな……男の格好をして女をホテルに連れ込むかえでだけでも問題なのにこれ以上頭の痛い人間は増やしたくねえかんな。それとここは東和だ。クンサの戦場じゃねえんだから野外で盛るのはやめてくれよ。これ以上うちの評判を落としたくねえんだ」
そう言うとかなめはゲートの操作のスイッチを開けた。
「じゃあ、行ってきますね!そして学校が終わったらまたホテルで彼と……学校って本当に楽しいんですね」
元気よくそう言うとアンは駆け足でゲートを超えて部隊の外に出て行った。
「それで、かなめちゃん。アン君は学校に通ってるのかしら、それとも彼氏とホテルに通ってるのかしら……どっちがアン君の中では比重が重いと思う?」
BL本でそう言う関係について造詣が深いアメリアは消えていくアンの後姿を見ながらそう言った。
「そりゃあ元少年兵としてはホテルの方が重いんじゃねえの?まったく十八だって言うのに色気づきやがって。学校ってものを完全に勘違いしてるぞ。それに二十四で童貞の神前の前であんなに堂々とホテルに通ってるなんて言うなんてやっぱ第二小隊は18禁だな」
かなめの言葉に誠は言葉を失った。そしてアメリアとかなめの会話の意味をまるで理解していないカウラは一人静かにみかんを食べていた。