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リースと共に 2

「あ、兄貴…… もうやめた方が……」

 寝ているムツヤに殴られ蹴られ兄はボッコボコになっていた。

「馬鹿野郎お前、俺はムツヤを殺ってビッグになるぞ!!」

 そう言ってツッコむも、またムツヤに殴られてしまい、遂に気を失ってしまった。

「チクショウ覚えてやがれ!!!」

 弟が兄を背負って逃げていくと、ムツヤと手を繋いで寝たふりをしていたヨーリィはそっとナイフをしまって眠りについた。




 やがて日が昇り、うーんとユモトが起きた。魔物の警報魔法には異常が無い。

「ムツヤさーん、ヨーリィちゃん、起きてくださーい。お料理作るのでカバンを貸して下さい」

 トントンとムツヤの肩を叩いて言うとムツヤは目を覚ます。

「あー、おはようございまずユモトさん」

「おはようユモトお姉ちゃん」

「魔物の心配をしてましたけど、何もなくて良かったですね」

 ユモトが笑顔で言うとムツヤも「そうですねー」と言う。ヨーリィは無言でそれを眺めていた。

 全員が起きて朝食を済ますと、アシノは赤い石を木に叩きつけてギルスを呼び出した。

「やあ、おはようアシノ。何かあったのか?」

 アシノは昨日あった事をかいつまんでギルスへ説明する。

「それで、そこのリースって子を信用してキエーウの支部を叩こうってわけか」

 ギルスは呆れてため息を付きながら言った。

「あのな、どう考えたって罠の可能性が高いだろう、君達は昨日まで敵だった奴の言葉を信用するのか?」

 そう言われてリースは何かを言いかけたが、下を向く。それを見てルーが代わりに反論する。

「大丈夫、リースちゃんは良い子よ!」

「良い子がキエーウに入るかバカ!!」

 痛い所をつかれて思わずルーも黙ってしまう。ギルスは構わず持論を述べ続けた。

「それに仮にだ、その子が本当のことを言っているとしても。キエーウだって馬鹿じゃない。きっと支部を移動させたか、罠を張って待ち構えているぞ」

「そこでムツヤの出番だ」

 腕を組んでいたアシノが喋る。

「罠だろうがなんだろうが、こいつを送り込んで暴れさせりゃ勝てるやつなんていない」

「そりゃそうかもしれんが……」

 こっちにはムツヤという人型兵器と言うべき反則的な力がある。

「もうビクビクとキエーウから逃げながら石を埋めるのはゴメンだ」

 アシノが言った後、モモも話し始める。

「それに、これ以上奴らを野放しにしていたら一般の人たちにも被害が出てしまうかもしれない」

 モモは昨晩の刺されたエルフを思い返していた。ギルスはうーんと唸った後に結論を出した。

「わかった、そこまで言うなら行って来るといい。やるにしろやらないにしろ、早い方が良い」

「決まりだな」

 アシノはニヤリと笑って言った。これからムツヤ達はリースの案内でキエーウの支部を襲撃することになる。

 とうとう迫りくるキエーウとの本格的な戦いに各々覚悟を決めていた。

 ムツヤ達は、亜人を滅ぼそうとしているキエーウの元メンバーである『リース』の案内でその本拠地を叩こうとしていた。

 リースが言うにはここから更に南へと下った枯れたダンジョンの中にあるらしい。

「ところで、『枯れたダンジョン』って何ですか?」

 ムツヤが皆に尋ねると、アシノが答えてくれた。

「枯れたダンジョンってのは、物資や魔石の類が取り尽くされて魔物も生まれなくなったダンジョンだ。冒険者が寄り付かないから、盗賊団や山賊なんかのアジトになることが多い」

 なるほどとムツヤは納得する。野営の撤収を終えるとアシノが一応周りを警戒してムツヤに言った。

「ムツヤ、カバンを貸せ。リースの武器と防具を見繕う」

 はい、と言ってムツヤはカバンをアシノに渡した。

「お前、得意な武器はなんだ?」

「そ、それが…… キエーウに入る前は武器なんて使ったことなぐで……」

「そうか、とりあえずこの鎖かたびらは中に着ておけ。それと護身用の短剣を渡しておく」

「すみまぜん……」

「いいか、お前はもうキエーウに狙われる側なんだから常に周りを警戒して、何かあったら私達の後ろに隠れるか、逃げろ」

「はい!」

 リースの装備も整え、ムツヤ達はその枯れたダンジョンを目指し歩き始める。

「なーんていうか、歩きっぱなしで疲れるわねー。ムツヤっち、何かこう空でも飛べる道具ないのー?」

 歩いて5分でルーが文句を言い出した。ユモトは「ははは」と苦笑いをして、ムツヤはウーンと何かを考えていた。

「そういうのは無いですね……」

「ムツヤのカバンのおかげで大荷物を背負わなくて済んでるんだ、それで充分だろ」

 アシノが言った後もルーはぶつぶつと文句を言っていてユモトとモモがまぁまぁとなだめていた。

「そうよ!! 私達に足りないものに今気が付いたわ!」

 一同がどうせまたくだらない事を言うんだろうなと思っていたが構わずにルーは言う。

「馬よ馬!! お馬さんよ!!」

「馬か、たしかに馬車でもありゃ楽だが……」

「もう歩くのつかれたー!!!」

 ルーが騒ぎ出したのでアシノは頭にチョップを食らわせて「へぴち」と言わせる。

「考えてみれば僕たちずっと歩きっぱなしですね……」

 ムツヤやモモならいざ知れず、ついこの間まで寝たきりだったユモトには体力的に辛い部分があった。

「あ、馬ありました」

 ムツヤがそう言うと全員の視線が集まった。

「え、マジ?」

 ルーは素が出て思わず言った。ムツヤは「はい」と言ってカバンをゴソゴソといじる。

「確かカバンに生き物は入れられないはずでは?」

 付き合いの長いモモが覚えていたことを言うと、ムツヤは言葉を返しながらカバンから馬のぬいぐるみを取り出した。

「はい、これ生き物じゃないんで」

 そう言ってムツヤが取り出したのは小さな馬のぬいぐるみだ。

「あら可愛い、って! こんなんじゃ乗れないわよ!」

 ルーがツッコミを入れるが、次の瞬間言葉を失った。地面においた馬はみるみるうちに大きくなっていったのだ。

 まるで本物の馬のようになったぬいぐるみは、ヒイインといなないて足を上下に動かす。

「お前な、そんな便利なもの持ってんならもっと早く出せ……」

「え、あ、すみませんでした! すっかり忘れてて……」

 一同は今までの歩きの旅は何だったのだろうと思っていた。

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