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イタガ攻防戦 2

「……ごめん、ちょっと感情的になった」

 乗り出した身を収め、ルーは椅子に座る。

「そうだ、落ち着け。こっちには切り札があるだろ」

 言ってアシノはムツヤを見た。ハッとしてルーもムツヤを見る。

「そうよ、そうだったわ……。本当に私、頭がどうかしていたみたい」

 絶望した表情から一転ルーは自嘲した笑みを浮かべた。

「確かにムツヤ殿はお強いです。しかし、ムツヤ殿は初心者の冒険者ということになっています」

「あっ、確かにそうでした」

 モモが異論を唱えるとユモトもその問題点に気付く。

「そんなもん正体隠して暴れりゃ良いだろ」

 アシノはニヤリと笑って言う。全員確かにと納得はしたが少し不安があった。

「ムツヤ、お前のカバンには色々入ってるんだろ? それで正体が隠れるように変装するぞ」

 そう言うと同時に会議室にノックの音が響いた。ムツヤが妨害魔法を張っている為、今の会話は外に聞こえていない。アシノが魔法を解くようムツヤに目で合図をした。

「どうぞ」

「失礼します。お久しぶりです勇者アシノ様、そしてルーも久しぶりね」

「ご無沙汰しております。勝手に会議室を使ってしまい申し訳ありません」

「お久しぶりですクーラ様……」

 おそらく1番最初に入ってきた老女がイタガの冒険者ギルドのギルドマスターだろう。その後にも幹部と思わしき男女がゾロゾロと入ってきた。

「申し遅れました。イタガの街の冒険者ギルドを預かっております『クーラ』と申します」

 クーラと名乗った老女がお辞儀をするとムツヤ達も立ち上がり頭を下げた。ムツヤ達とギルドの幹部たちは対面する形で座り直す。

「単刀直入にお聞きしますが、魔人が現れたというお話は本当なのですか」

「えぇ、あれは間違いなく魔人でした。そして明日この街を襲うとも言っていました」

 アシノが答えると会議室はざわつく。

「勇者アシノ様が言うのであれば間違いないでしょう」

 クーラはため息をついて手で目元を抑える。

「スーナの街のギルドには連絡をしてありますが、馬を使って1日半の上、急な事態の為に援軍には期待できないかもしれません」

「私も部下に連絡石で周辺の街のギルドに連絡は取るよう指示はしましたが、こちらも厳しいかもしれません」

「クーラ様、治安維持部隊はどうなの?」

 ルーが聞くとクーラは答える。

「最初は本当かと信じて貰えませんでしたが、アシノ様の名前をお出ししたら迎撃の準備を整えてくれる事になりました」

 ムツヤ達は改めて勇者という地位とアシノの名前の凄さを思い知った。

「治安維持部隊と冒険者ギルドの連携はお任せしてもよろしいでしょうか? 我々はもっと魔人について調査し、夜は遊撃隊として戦いに参加をしたいと考えているのですが」

「かしこまりました、アシノ様。我々もこの街を守るために全力を尽くします」

 アシノは立ち上がり、クーラの手を優しく握り部屋を出た。ムツヤ達も一礼してその後に続く。

 残された時間はたった1日、しかしアシノはまた森へ入るわけでもなく、宿屋へと帰った。

「さてとムツヤ、カバンから適当に服や鎧を引っ張り出してくれ、後は私達で選んでおく」

「わがりました」

 ムツヤはカバンに手を突っ込んでポイポイと服と鎧を取り出してベッドの上に投げる。

 仲間たちはそれぞれムツヤが変装できそうな物をそこから見繕っていた。

「よーし、そろそろ止めて良いぞ」

 3つあるベッドの上が服と鎧で山盛りになった頃にアシノは待ったをかけた。仲間たちもそれぞれムツヤに似合いそうな服を見つけたらしい。

 1人ずつその服や鎧をムツヤに渡す。

「そんじゃ私達は後ろ向いててやるから着替え終わったら呼んでくれ」

「覗かないから安心してねー」

 そう言って皆くるりと後ろを向いたが、ふと違和感に気付いてアシノは言う。

「おいユモト、お前は男なんだから別にこっち向かなくても良いだろ」

「え、あ…… 一応…… と言いますか」

「むしろ男のお前が着替えを手伝ってやれ、鎧は1人で身につけるの大変なんだぞ」

「ぼ、僕がですか!?」

「ユモトさーん、手伝ってくれるならお願いじます」

 ムツヤにもお願いをされ慌てながらも目をつむったまま振り返りユモトはゆっくり目を開けた。

 そこに居たのはパンツ一丁スタイルのムツヤだ。

「あ、あっすみませんムツヤさん!!」

「? どうして謝るんですか?」

 後ろを向いたままルーはクスクスと笑っている。モモは何だかまた嫌な胸騒ぎを感じていた。

「え、これって服…… なんですか?」

「わがりませんけど、着てみますか」

 最初に手に取った服を見てユモトとムツヤは不思議に思う。ゴソゴソと音がしてしばらくするとムツヤが声を出す。

「着替え終わりましたー」

 その声を聞いて女性陣は後ろを振り返った。そこに居たのは全身黄色のタイツに身を包んだムツヤだった。

「……なんだそれ」

 アシノが一言ポツリと言うと同時にルーは指をさして笑い始める。

「似合う、っぷくくく、似合うじゃない」

「選んだのお前か!! お前街を守りたいのか守りたくないのかどっちなんだ!!!」

 アシノは思わずルーの頭を引っ叩くと「パプゥ」と変な声を出した。

「ふざけたわけじゃないわよ、あの黄色い服には何かとてつもないパワーを感じるの。そう、例えるなら宇宙のパワーを!!」

「宇宙ですか……」

 モモも若干呆れたように言う。ヨーリィは興味なさげにぼーっとムツヤを見ている。

「何でずかね、この服を着ていると体を伸ばしたくなります」

 言ってムツヤは手や足を伸ばし始めた。

「力が溜まっていく感じがします、大きな声で数も数えたくなってきました!!」

「いい加減にしろ、その服は却下だ却下」

 ルーの選んだ黄色いタイツは却下されることになる。

「ユモト、そいつはアホみたいに強いから見た目重視でいけ」

「あ、はい、わかりました!」

 そしてまた女性陣が後ろを向いてムツヤの着替えが始まった。

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