グィネヴィアとランスロット
アーサー王の妃グィネヴィアは、若くしてアーサー王と婚約、結婚した。
ゆえに、恋を経験したことがなかった。
アーサー王と不仲ではなかったし、慕っていないわけでもなかったが、何かが足りないと感じていた。
その『足りないもの』を補ってくれると本能で感じたのが、ランスロットである。
彼女もランスロット同様初めて会った時に一目惚れし、初恋の相手となった。
見目麗しいうえに円卓の騎士のなかでもガウェインなどとともに別格の強さを誇り、男女ともに人気がある彼は、グィネヴィアの恋心をより激しく燃え上がらせる薪も同然。
少し風が吹けば後戻りはできないのだ。
そしてその風が吹くのは時間の問題。
ある夜キャメロットの宮廷で宴会が開かれた後、1人自室へ向かおうとしていたランスロットをグィネヴィアが呼び止めた。
「グィネヴィア様、ここで何を?」
「少し話があるの。移動しても?」
「……承知致しました」
グィネヴィアは自室へ招き入れた。
初めは躊躇したランスロットだったが、込み入った話ならば仕方がないと覚悟を決める。
「その……お話とは?」
「……私は、今まで本当の恋を知らなかったのかもしれないわ」
「と、仰いますと……」
「ランスロット、あなたをずっと慕っていたの。この城へ来た時からずっと」
当時ランスロットは、グィネヴィアへの愛は一生隠し通そうと思っていた。
ゆえにランスロットはこの王妃の告白に揺らいでしまった。グィネヴィアに跪いたランスロットは、彼女の告白に回答する。
「……グィネヴィア様、私もあなたをお慕いしておりました。ですが、私はアーサー王に仕える身。あなたのためにも、俺があなたを愛することは許されない」
「ランスロット……」
「どうかお許しください。俺はその代わり、他の方を愛さず、あなたへのこの想いを背負ってあなた方にお仕えしましょう。これが俺自身に課す罰にして、あなた様との約束でございます」
2人の間に沈黙が流れる。ランスロットは顔も上げられず、立ち上がれなかった。
最強の騎士の1人と謳われる彼も、愛する女性の告白をはねのけるのは怖いのだ。
しばらくして、グィネヴィアはしゃがみこんだ。
「……分かりました。ではせめて、……今夜だけは共に居てくださらない?」
ランスロットはその誘いを断ることはできなかった。この1晩でけじめをつけた2人はこの後、ただ互いを想い続ける関係となる。
だが2人は、この『たった1回』を甘く見ていた――。