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理不尽にも吹き飛んでしまう

 ラミッタと共にマルクエンは部屋に入り、荷物と鎧を置くと、ふうっと息を吐く。

「私は温泉に入ろうと思う。ラミッタはどうするんだ?」

「そうね、私も行こうと思ってたわ」

 剣と肩当てを外してラミッタは早々に部屋を出ようとしていた。

 マルクエンもその後を追い、浴場の前まで来た。シヘンとケイはまだ居ないようだ。

「ラミッタさーんおまたせっスー」

 しばらくして、ケイがそう言いながらやって来た。後ろにはシヘンも付いてきている。

「それじゃ私達は行くけど、女湯覗いたら殺すわよ宿敵」

「なっ!! そんな事するわけ無いだろ!!」

 ラミッタさんはマルクエンさんにあたりが強いなーっとケイは思いながら女湯の脱衣所に消える。

 マルクエンは一人男湯に入ると、混雑する時間帯で無かったからだろうか、一人貸し切りの状態だった。

 よく体を洗い、マルクエンは内風呂へと入る。

「くぅーっ……」

 程よい熱さの湯に思わず声が漏れた。体の中に染み渡る気持ちだ。

 一方で女湯はと言うと、ラミッタ達も服を脱いでいた。

 ラミッタは黒を基調とした服を脱ぐと、白い肌が映える。シヘンはそれよりも更に白く、長いブロンドヘアを結って後ろでまとめた。

 ケイは健康的な褐色の肌を晒し、赤みがかった銀髪のウルフカットをかきあげる。

 脱衣所の扉を開くと湯けむりが出迎えて来た。体を洗い終えると、温泉へと入る。

「あぁー、生き返るっスね!!」

 ケイが思わずそう言う。ラミッタは目を閉じて温もりを感じていた。

「本当、良いですね」

 湯のせいか、シヘンは頬が紅潮していた。そんな彼女の胸の膨らみにラミッタは目が行っていた。

 ラミッタも小さい訳では無いが、見比べると遥かに大きい。なに食べたらあんなになるのと心の中で思う。

「おっ、露天風呂もあるみたいっスよ! 行ってきますね!」

 露天風呂と聞いて、ラミッタも湯から上がり言う。

「私も行くわ」

 時を同じくして、マルクエンも露天風呂へと向かっていた。そんな彼を遠くから見つめる影がある。

「見付けたわ、下僕候補」

 マルクエンを襲った盗賊、黒魔術師のシチ・ヘプターと手下だった。夜に溶け込む黒髪と青色のゴスメイクをしている。

「姉御! 相手は隙だらけですよ!」

 のんびり湯に浸かっているマルクエンを見て手下が言う。

「えぇ、そうね。これはあの男を分からせる為よ、決して覗きじゃないわ」

 シチははぁはぁと言いながら男湯を凝視していた。

「よし、行くわよ!!」

 シチは茂みから飛び出る。マルクエンは音と気配がしてそちらを振り返った。

「なっ!!」

 思わず湯に入って股間を隠す。

「はーはははは!! 我が下僕候補よ元気だったかしら?」

「お、お前は!!」

 マルクエンはタオルを腰に巻いてから立ち上がり直した。

「そう、私は偉大なる黒魔術師、シチ・ヘプター!!」

「姉御!! カッコいいです!!」

 そう名乗る女だったが、やっている事は、ただの覗きだ。

「な、何が目的だ!?」

 マルクエンは、シチへ問いかける。

「簡単なことよ、あなた私の下僕になりなさい」

「意味がわからん!!」

 段々と恥ずかしさからマルクエンの顔が余計に赤くなってきた。

「そう、それじゃ私の偉大さを分からせてあげるわ!!」

 マルクエン目掛けて攻撃魔法が飛んできた。思わず飛んで躱す。すると腰のタオルが解けてしまった。

「あっ」

 はらりと落ちるタオルを見てマルクエンは声が出る。それと同時にシチは叫んだ。

「はっ、へっ、きゃあああああ!!!」

 マルクエンのマルクエンを見たシチは手元が狂い、湯船に爆破魔法を打ち込んでしまった。

「なっ!!」

 温泉の湯ごと理不尽にも吹き飛ぶマルクエン。柵を乗り越えて隣の露天風呂にバシャーンと着水した。

 湯から体を出したマルクエン。それを取り囲んで見つめるのは……。

 ラミッタとシヘン。ケイが呆然とした顔をしていた。丸出しエン、いや、マルクエンも同じだった。

「い、いやああああああああ!!!」

 そうラミッタは叫んで湯船に身を隠す。

「ち、違う!! これは違うんだ!!」

「ちょ、マルクエンさん!? 何やってんスか!!」

「マルクエンさん!?」

 どうして良いか分からないパニック状態になる一行の前に黒魔術師シチが現れた。

「きょ、今日はこれぐらいにしてあげるわ!!」

 言い残して何処かへ去っていく。マルクエンはそれを指さして弁明する。

「あ、あいつ等!! あいつ等に襲われて!!」

「いいからさっさと帰れー!!」

 ラミッタが爆発魔法を使うと、湯ごとマルクエンは吹き飛んで、男湯に沈んだ。



 ひとまず着替えて温泉から出るマルクエン。休息のはずがえらい目に会ったなと思う。

 ラミッタ達にどんな顔をして会えば良いのか分からないが、小さい休息所で待っていた。

「あら、ド変態卑猥野郎さんじゃない。お湯加減はどうだったかしら?」

 やって来たラミッタが腕を組んでマルクエンを見下す。

「いや、その、申し訳ない」

「そんな! マルクエンさんは襲われたんですよ!? 悪くないです!!」

「そうっスよー、仕方ないっス。それに私達以外居なかったんで、不幸中の幸いっす!!」

 シヘンとケイはそう言ってくれたものの、マルクエンの頭からあの時の光景が離れない。

「牛乳奢って」

「え?」

 ラミッタの言葉にマルクエンは返事をする。

「牛乳奢ってくれたら今回の件チャラにするわ」

「そ、そんな事で良いのか!?」

 急いで牛乳を買いに走るマルクエン。ラミッタに許されたことでホッとしていた。

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