バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

【033:エピローグ3・灼熱の楽しさ】

毎日が灼熱だった。
空調は全開。それでも溢れんばかりの人が飛び跳ね、汗を流して酒を煽って飛び回っている。
ステージに備えられる何世代か前の白熱灯はケバブの様にジリジリ焼かれ、それに負けるかとマイクを握る。
「夢をー乗せてー!」
大型アンプから声が響き渡ると客も負けじと熱量を返す。
流れる汗も気にならない灼熱の楽しさが音楽を加速させる。
音楽は佳境。
サビに入る前、ステージは最高潮になり――
――ゆっくりとフェードアウトしていく。
やり場のない熱を持て余した客は困惑の表情でステージを見ると、ボーカルの金髪が一歩前に出る。
「ライブツアーファイナル。皆さんのおかげでここまで来れました」
「とっても幸せな三日間でした」
「ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げると、ステージを盛り立てるヤジと歓声が飛んだ。
下げた頭が微笑んでいる事はここに居るファンのみんなが知っていた。
「最後の1フレーズ――」
「――私と一緒に歌おうぜ!」
おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!
歓声に呼応するようにドラムが叩かれベースが音の道を作りトロンボーンが交信する。
ギターが音の道をなぞっていく。
灼熱の歌声を乗せて、楽しさが伝染する。
胴上げされた人が右へ左へあちこちに流れていく。
自分達で作った歌を、みんなで楽しむために演奏できるほんの数秒は最高の幸せと小さな嫉妬。
今まで散々歌っておきながら、やっぱりこっちにマイクを持って来いと子供じみた嫉妬。
私だって、歌いたいんだ――!
観客が1フレーズ終わったところで自分のマイクを奪い返すように握った。
「そして輝け明日の星!」
「太陽が寝てる今こそが俺達の時間」
「星と星が煌めく夜空はみんなの夜空」
「流れ星に乗せるのは俺達の音楽」
「届け別の世界へ、流れろどこまでも」
「夢を乗せて!」
会場が熱に包まれる。
音楽が楽しいという想いが交差して交わる。
「ありがとうなーーーーー!」
最高潮から、さらにエンジンを踏み入れる。
(――見てるか色助)
未来の国宝だが世界の頂点だが知らねえが、どうだ! すげーだろ!
湧き上がる歓声を身体いっぱいに受け止め、両手を挙げて応える。
負けねえぞ!
音楽ってのは、楽しいんだよ!

しおり