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護衛

 薬草集めは途中トラブルもあったが、無事に終わり、昼過ぎには冒険者ギルドへと戻る事ができた。

「お疲れ様でした。検品が終わり次第、報奨金をお渡ししますね」

 受付嬢にそう言われ、ギルド併設の食堂に四人は座る。

「さーて、昼飯を無くした人のお陰でお腹すいたわね」

「ぐっ、すまない」

 マルクエンは大きな体を縮こませて謝罪した。

「そんな!! 謝らないで下さい」

 シヘンがオロオロして声を掛ける。

「ご飯は宿敵の奢りね」

 ラミッタが片目を閉じて言うと、更にマルクエンは申し訳無さそうな顔をした。

「その、私は一文無しだ……」

「っかー、情けないわね」

 食事代は後で返すと払ってもらったマルクエン。空きっ腹に濃い味付けの料理が染みる。

「おまたせしました! 買い取り額は三万七千エンです」

 マルクエンは今更ながらこの国では通貨の名前が『エン』である事を知った。何か自分の名前と似ているなと思う。

「報酬は山分けね」

 ラミッタは言って九千と少しのエンを分配する。

「さて、疲れてなけりゃまだクエストを受けたいんだけど」

 ちらりとシヘンを見るラミッタ。少し疲れが顔に出ていた。

「あ、あの、私なら大丈夫ですよ!!」

「シヘン。無理をしないで。出来ないことは出来ないって正直に言わないと、命を落とすわよ」

「あっ、はい……。すみません」

 ラミッタの言う事は正論だ。マルクエンも今回は口を出さずにしておく事にした。

「私と宿敵で何か実績になりそうなクエストをやるわ。ケイはどう?」

「私は稼げるなら何でもいいっスよ」

 そう笑ってケイは返す。

「それじゃお次は……。これでいいか、動物狩り」

 ラミッタが選んだのは猪や鹿から、うさぎといった食べられる動物の狩りだ。



 宿で一足先に休んでいたシヘンは、いつの間にか眠ってしまっていた。起きて紅茶の用意をしていると、ドアが開く。

「おまたせー」

 ケイが笑顔で部屋に入ってくる。その後ろにはラミッタも居た。

「いやー、ラミッタさんが動物狩るのが上手いのなんのでさー」

「訓練で取って食べていたからね」

 そんな二人の会話を聞いてクスクスと笑うシヘン。いつか足を引っ張らない程度に強くなりたいなと考えていた。


 街で過ごして一週間が経った。草むしりに荷物の運搬といった雑用感漂うクエストを黙々とこなすマルクエン達。

 そんな中、山奥まで護衛というクエストをラミッタが見つける。

「Eランクでも受けられるし、金払いも良いわね。それに別の土地に行けば何か情報でもあるかもしれないわ。泊まりの仕事だけどね

「あぁ、そうか。わかった」

 ラミッタの言葉にマルクエンは二つ返事で答えた。

「あなた達は付いてくる?」

「何いってんすかラミッタさん! 行くっスよ!」

「私も付いていきます!」

 シヘンとケイもそう言ってくれたので、正式にクエストを受け付けることにした。

 街の外で待っていると、老夫婦が現れる。今回の依頼主だ。

「あんた達が、護衛の冒険者さん達かな」

 老夫に尋ねられ、マルクエンは頷く。

「えぇ、トルク様ご夫妻ですね。マルクエン・クライスと申します。短い間ですが、よろしくお願い致します」

 丁寧に言うと、老婆は頭を下げた。

「これはこれはご丁寧に。よろしくお願いします。親切そうな方で良かった」

 挨拶もそこそこに、老夫婦を馬車に乗せ、マルクエンとラミッタはその前を、シヘンとケイは後ろに付いて歩く。

 道中、魔物の襲撃があったが、マルクエンが剣を引き抜くよりも早くラミッタが片手間に雷で撃ち落としていた。

 その様子を見て老夫が話す。

「やるな、お嬢さん。俺も昔は冒険者をしていたんだが、あんたEランクじゃないな?」

「えぇ、私はDランクです。この隣の男がEランクなので合わせてやってます」

 そう言われるとマルクエンは、ハハハと苦笑いする。

「D? もっと上だと思ったが。それに、そっちの兄さんも体つきはEランク冒険者だと思えんな」

「その、事情があって冒険者を始めたばかりでして……」

「なるほど、そうだったか」

 そんな何気ない会話をしながら歩いていると、夕暮れ前には山奥へ着いた。

「あんた達、護衛ご苦労さま。宿は取ってあるから好きに休んでくれ」

「お気遣いありがとうございます!」

 マルクエンは姿勢を正して言うと、老夫婦達と別れ、宿に入った。

「すげー! 結構いい宿っスね! 温泉も付いているらしいっスよ!」

 宿屋の前でケイが興奮して言う。

「そうね、さっさと受付するわよ」

 中に入り、予約の客だと伝えると、部屋の鍵を二本渡された。

「あれ、これってもしかしなくても……。二人部屋が二つじゃないっスか?」

 ケイの言う通りだった。それを聞いて状況を理解したマルクエンが言う。

「私は自腹でもう一つ部屋を取りますよ。って事でお願いしたいのですが」

 その言葉に、受付嬢は申し訳無さそうな顔をする。

「申し訳ありません。今日はもう空きが無くって……」

「そうですか……」

 まいったなと思うマルクエン。ラミッタが目を閉じて話す。

「誰か宿敵と一緒の部屋に泊まらなくちゃいけないわね」

「いや、大丈夫だ。私は最悪野宿でもする」

 そんな事を言うと、シヘンがおずおずと言った。

「あの、私はマルクエンさんと一緒でも大丈夫ですよ?」

 シヘンが言うとラミッタが焦って言葉を重ねる。

「駄目よこんなド変態卑猥野郎と一緒なんて!! 何が起こるやら……」

「誰がド変態卑猥野郎だ!!」

 言い返すマルクエン。そして、ラミッタが言った。

「仕方が無いから私が宿敵と一緒の部屋になるわ。指の一本でも触れたら息の根を止めるけどね」

「言ってくれるな」

 言い合う二人をケイがなだめる。

「まぁまぁお二人共。それよりこの宿、温泉が付いているらしいっスよ!! 行きませんか? 行きましょうよ!」

「温泉ですか、良いですね」

 マルクエンがそう返事をし、皆は部屋へと向かった。

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