傷跡の行方
ラミッタの反応を見て、マルクエンはポカーンとしたが、自分の発言を省みて、あっと声を出す。
「ち、違う! ほら、俺はその、剣でお前の胸を貫いただろ? その傷が無いかどうか確認がしたいだけだ!」
「なっ、そういう事!! 紛らわしいのよ!! バーカバーカ!」
マルクエンは焦りつつも、冷静なもう一人の自分がラミッタにも恥じらいがあるんだなと思っていた。
「えっと、それで、どうなんだ? 胸の傷は」
「教えない」
すっかり機嫌を損ねたラミッタはそっぽを向く。
「や、やっぱりあるのか傷?」
心配そうなマルクエンに対し、ラミッタはふんっとご機嫌ナナメのまま言った。
「宿敵に体の心配をされるほど落ちぶれちゃいないわ」
そんなラミッタだったが、何かに気付いてピクリと反応する。そして、先程まで居たトーラ村の方角を見た。
「何か、魔物の気配がするわ」
「本当か!?」
マルクエンの言葉よりも早く、ラミッタは千里眼を使った。間違いない、また魔物が村へ近付いている。
「っ! 付いて来て宿敵!!」
「わかった!」
二人は来た道を走って引き返していく。
「こんな小さな村に一個中隊が壊滅させられたって聞いたがよー。どこかに生意気な冒険者でもいるんじゃねーのか?」
村は至る所が炎で燃え盛っていた。警備や増援の兵隊たちも倒されてしまっている。
住民も、冒険者たちですらガタガタと震えながらその者を見ることしかできない。
「お、お前は……」
ケイがシヘンの前に立ち塞がり宙を飛ぶ者を見て言った。
「俺様は魔人コンソ様だ、どうやら雑魚しか居ないみたいだ。わざわざ俺様が来るまでも無かったな。無駄足を踏ませた責任を……」
コンソと名乗る魔人は右手に魔力を集中させる。オレンジ色の光が段々と大きくなっていった。
「死を持って償え!!」
もうやられる。ケイがそう思った瞬間だった。
「魔法反射!!」
魔力が魔法の防御壁にぶち当たり、反射される。ケイと魔人の間にはラミッタが立っていた。
「ラミッタさん!?」
ケイが驚いて言う。それと同じくしてマルクエンも現れ、宙へ飛び上がり魔人に斬りかかった。
「ほう、少しは楽しめそうな奴がいるじゃねえか」
魔人コンソはニヤリと笑い、武器である長槍を構えた。どう絶望を与えてやろうかと考えていたが、次の瞬間。思考が止まる。
マルクエンの剣を槍で受け止めたコンソはそのまま地面に叩きつけられていた。
「なっ、がはっ」
仰向けで寝転ぶコンソ。息がうまく出来なくなる。
「一気に行くぞ!!」
ラミッタも剣を引き抜いて詠唱をしながら構える。光で出来た剣が彼女を中心に何本も現れ、一斉にコンソへ飛んでいった。
串刺しになるコンソへ止めとばかりに、宙から落ちてきたマルクエンが剣を下に構えて貫く。
「ば、馬鹿な、この俺が!!」
手も足も出なかった相手があっという間に倒される様を冒険者と数十の兵士たちは見ていた。
コンソの体が光とともに薄く消えて行くのを見届けた後で、ラミッタとマルクエンが言う。
「これは私の手柄ね!」
「いや、一番槍は私だ」
そう言った後に二人はお互いを見てふっと笑う。
「次はどっちが魔物を多く倒せるかね」
「あぁ、負けん」
マルクエンは重装とは思えない速さで走り、大剣で敵を真っ二つにし、ラミッタは魔法の雷や氷で敵の数を減らしながら、近付く者を剣で切り裂いた。
しばらく戦って、魔物が消えたことを確認し、二人は剣を仕舞う。
「私は百三十六匹よ」
ラミッタが言うと、マルクエンは気まずそうに頭をかく。
「えっと、すまん。夢中になってて数えてなかった」
「宿敵……。バカ正直ね」
そんな二人に、トーラ村の村長が近付いた。
「ラミッタさん。そしてそちらの冒険者の方、ありがとうございます」
死んだ顔をしながら言う村長に、マルクエンは、なんて声を掛けたら良いのか分からずにいた。その代わりにラミッタが言う。
「村長さん、来るのが遅れて申し訳なかったわ」
家々が燃え盛る村を見てマルクエンも同じ気持ちになる。
「いえ、お二人が来て下さらなかったら、もっと酷い事になっていたでしょう」
その後、分かった事だが、村人は避難していたので犠牲者が居なかったらしい。兵士と冒険者数名が怪我を負ったぐらいだ。
村人達は戦火を逃れ、残った家で夜をやり過ごした。マルクエンとラミッタも家に居ることを進められたが、部屋が狭くなるので野宿をする。
二人は寝袋に入り、向かい合わせに寝た。先に眠ったラミッタの顔を月明かりが照らす。マルクエンは初めて近い距離でその顔を見た。
すぅすぅと気持ちよさそうにする寝顔を見つめ、いつの間にかマルクエンも眠りについていた。
「いつまで寝ているのよ宿敵」
マルクエンはその声で起きた。もぞもぞと寝袋から出てうーんと伸びをする。
「あぁ、おはようラミッタ」
村では炊き出しが行われていた。
「あ、マルクエンさんとラミッタさん! おはようございます」
シヘンが二人を見て挨拶をする。マルクエン達もおはようございますと返した。
「お二人も朝ごはんどうですか?」
「いえ、大丈夫です」
ただでさえ大変な村の事を思い、遠慮するマルクエンだったが。