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ランチタイム

「おーい、マルクエンさんこっちっスよー!!」

「あ、マルクエンさん」

 シヘン達の方へマルクエンは歩き出し、その後ろをラミッタが両手を頭の後ろで組んで付いて行った。

「シヘンがマルクエンさんが来るまで待ってようって言うから腹減ったっすよー」

「あ、いえ、ご馳走するって約束したので……」

「そうですか、悪い事をしました」

 朗らかに笑うマルクエンとは対照的にラミッタはムスッとした顔をしている。

「あの、ラミッタさんもご一緒にどうですか……?」

 シヘンがおずおずと声を掛けると、表情を緩めて返事をした。

「それじゃ、座らせて貰おうかしら」

 マルクエンはシヘンの隣に座り、ラミッタはケイの隣だ。

「マルクエンさんは何かお好きなものはありますか?」

「そうですねー、麺料理や揚げ物が好きですね」

 言った後、ふとマルクエンは驚いて思わず声が出そうになった。

 メニューを見るが、異界の文字なのに何故か読み方と意味が分かったのだ。

「マルクエンさん? どうされました?」

「あ、いえ、そうですね。私はこのほうれん草のクリームパスタを頂きましょうか」

「なーにがクリームパスタよ。騎士様が」

 ラミッタはいちいち突っかかっていた。それを「まぁまぁ」とケイがなだめる。

「それじゃ、ラミッタさんは何が良いんスか?」

「はちみつのパンケーキ」

 そう言った瞬間、マルクエンが身を乗り出して大声を出す。

「ぱ、パンケーキだと!? お前、倒した野獣の血を啜るのが好きだって聞いていたぞ!? そんなお前がパンケーキ!?」

 煽っているわけではなく、本当に驚いて言うマルクエン。それに負けないぐらいにラミッタが反論する。

「ば、馬鹿か!! 私がいつそんな事をしたっていうの!?」

「だ、だが、私の国では」

 そこまで言いかけたマルクエンの頭を殴って小声でラミッタは言う。

「馬鹿っ! それは内緒だってさっき言ったばかりでしょ!」

「あっ、あぁ、すまない」

 そんなやり取りを見てケイがニヤニヤ笑いながら言った。

「お二人共、仲がよろしい事で。それじゃ注文するっスね」

「別に仲良くなど無いわ!! 誰がこんなヤツ……」

 ラミッタはドカッと椅子に座る。

「でも、お二人ってお知り合いですよね。どういったご関係なのでしょうか?」

 シヘンに尋ねられて、嘘が苦手なマルクエンは視線を左上にずらす。

「いや、あの、何ていうか」

「ライバル同士のパーティだったのよ。いざこざがあってね、私はコイツが嫌いよ。宿敵ね。今、再確認したわ」

「まぁ、そんな感じ……、ですかね」

 そんな言葉を聞いて、シヘンはハッとして尋ねる。

「それを覚えてるって事は、マルクエンさんは記憶が戻ったのですか?」

「あー、その、所々ですが、思い出してきたようなー感じですね」

「そうですか……」

 心配そうに見つめるシヘンに嘘を付いてマルクエンは心が傷んだ。

「そういやさっき、ラミッタさんがマルクエンさんの事を騎士様って呼んでて思い出したんスけど、騎士さんだったんスよね?」

 あ、やっちまったとラミッタは一瞬表情が固まるが、すかさず話す。

「元騎士様ね、コイツは城の女に手を出しまくって追放されて冒険者になったのよ」

「なっ!? 私がいつそんな事をした!?」

 マルクエンが言い返すが、ケイはうわーっと引く。ラミッタはべーっと小さく舌を出していた。

「気を付けなさい。そいつはド変態卑猥野郎(へんたいひわいやろう)よ」

「え、えっ!?」

 シヘンは何故か顔を赤くし、マルクエンが言葉に噛みつく。

「誰がド変態卑猥野郎(へんたいひわいやろう)だ!!」

 マルクエンとラミッタの言い合いは料理が運ばれるまで続いていた。

 料理が運ばれると、マルクエンは目を閉じて祈りを捧げる。

「神々よ、お恵みに感謝します」

 その様子をシヘンとケイは不思議そうに見た。

「それは……。お祈りですか?」

「えぇ、そうです」

 ラミッタは「余計なことするんじゃないわよ!!」と言いたい気持ちを抑え、ケイが笑って言う。

「私たちはこうっスね。いただきます!」

 シヘンとケイは両手を合わせて言った。これがこの世界の祈りなのだろうかとマルクエンは考える。

「神だとかくだらないわ。神が居たらもっと良い世の中になってるわよ」

「まー、そうかもしれないっスねー」

 ラミッタの言葉にケイはそんな返事をしてハンバーグを口に運んだ。皆も同じ様に食事を始める。

「ん! 美味しいですね、このパスタ」

 ギルド併設とは思えない完成度にマルクエンは驚く。王都の高級店にも劣らないだろう。

「ふふっ、田舎だから食材が新鮮なんですよ」

 シヘンは嬉しそうに言った。

「本当、良い村ですね」

「いっその事住んじゃうっスか? マルクエンさん」

 ケイに冗談っぽく言われると、ハハハと笑う。

「いえ、まだ私には使命がありますので。ですが、隠居したらのどかな村に住みたいですね」

「隠居だとか、何ジジくさい事を言ってんのよ」

 パンケーキをもしゃもしゃ食べながらラミッタが口を挟む。

 
挿絵


(イラスト:龍尾先生)

「マルクエンさんの使命って何なのでしょうか?」

 シヘンに聞かれると、答える。

「えぇ、今の所は魔王を倒すことですね」

 それを聞いてケイが大きな声で笑い始める。

「魔王討伐っすか、そりゃ良いっスね!! 夢はでっかくってね」

「えぇ、大変でしょうが、やるしかありません」

 真面目に言うマルクエンを見て、冗談で言ったのでは無いことを察し、ケイは笑うのを辞めた。

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