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第201話 かえでのいる機動部隊の日常

「昨日はお疲れさまでした!」

 機動部隊の詰め所の前で立ち尽くしていたかえでとリンに向けて出勤してきて着替えを終えた誠はそう話しかけた。とりあえず平常心を保とう。車中でアメリアに聞いた二人に関することを忘れるように努めながら誠はそう思った。

「昨日はあれからリンと激しく燃えてね……君にも見せたかったよ、僕が激しく乱れる様を」

 かえではまたとんでもないことを口走った。誠は顔を真っ赤に染めてかえでから目を逸らした。

「なにも恥ずかしがることは無いじゃないか。君も大人なんだから。それに君は僕の『許婚』だ。何ならいつでも参加してくれてかまわないんだよ」

 かえではそう言うと誠から見ても美しい横顔で誠に笑いかけた。

「日野少佐、部屋に入ってもよろしいでしょうか?」 

 カウラの言葉に機動部隊詰め所の前に立ちはだかるかえでは、カウラの顔を見るとこれもまたうれしそうな顔でカウラの無表情を見つめた。

「君には笑顔が足りないね。リンも以前はそうだった。もしよろしければ、僕が君の笑顔を作ってあげても良いんだよ」

 この人は見境が無い。誠がかえでに対して思ったことはそれだけだった。ただ、誠のゲームでもそう言ったヒロインキャラは見境が無くなるのが普通なので、今後の生活が非常に気になるものに感じられた。 

「丁重にお断りします。西園寺の馬鹿から貴君の悪行は存じ上げておりますので。それと昨日クラウゼに色々と貴君の事を聞いたのですが……」 

 カウラがそこまで行ったところでかえではカウラの口をふさいだ。

「あまり昼から言う話ではないね。僕がそうなったのは僕がそうなることを望んだからだ。クラウゼ中佐の話によると神前曹長の趣味に最適らしい。『許婚』の望む自分になれたことを僕は誇りに思っている」

 一応、階級が上と言うこともあってカウラはかえでに丁寧な口調でそう返したかうらだが、そこに返って来たそれを上回るかえでの異常な脳内の思考にカウラは混乱していた。カウラの精神状態がおかしくなっていることは、カウラがこういう時に見せる右手をパチンコのハンドルを動かす時の動作をする癖を知っている誠には手に取るように分かった。

「どうやら、僕はベルガー大尉には嫌われているようだ。それもまた良いんじゃないかな。僕にも好き嫌いくらいはある。ただ、男に嫌われるのは僕は別にかまわないが、女性に嫌われるのはあまり好ましいことだとは思っていない。少し残念だね」 

 かえではそう言うと笑みを浮かべて部屋に入っていった。カウラの表情は相変わらずの鉄面皮だったが、目で誠にかえでとはどうも相性が合わないと言っているように誠には思えた。

「神前気にするな。第二小隊とは上手くやっていかなければいけないと言う使命がある。私はこれからは出来る限り日野少佐の意に沿うような言動をとるようにしよう。ただ、一つ言っておく、貴様は日野少佐にはあまり近づくな。『許婚』と言うが、それはあくまで親が決めたことだ。日野少佐は精神衛生に非常に悪い性癖の持主だ。貴様には狂ってほしくない」

 カウラは誠にそう言うが、明らかにその目は自分の言葉が言葉だけのものだと言っているように見えた。 

「本当にやれます?あの人結構やっかいですよ。それにかえでさんを避けるって言っても……同じ部屋で一日中一緒に居るんですから。不自然になりません?」 

 誠の声にすぐに自分を取り戻したカウラは東和軍教導隊から運ばれてきたばかりの執務机に向かった。誠も隣の自分の席に向かった。

「西園寺!いつまでの詰め所の入り口でウロチョロしてないで、とっとと席に着け!」 

 カウラの言葉に仕方なく部屋に入ったかなめは、かえでの方をびくびくしながらうかがった。かえではまじめに通信端末の設定をしており、それを見て安心したようにかなめは自分の席に座る。

「ああ、お姉さまの端末の設定は僕が好みのものに編集し直しておきましたから!」 

 そんなかえでの一言にかなめはあわててモニターを開いた。大写しされるかえでの凛々しい新撰組のような袴に剣を振るう姿をかなめは冷汗をかいて眺めていた。

「かえで様素敵です!やはり、剣をふるう姿が一番かえで様にはお似合いです」 

 思わずリンが叫んだ。カウラはただ黙って同情の視線をかなめに投げた。かなめはと言うと、ただ画面を見たまま氷の様に固まっていた。

「ちょっとこれは……やりすぎなんじゃないかと……」 

 誠がそうつぶやくと再びかえでの鋭い視線が誠に向けられる。かえでにとっては『許婚』よりも姉に対する愛の方が比重が大きいと言うことを誠はその視線で察した。

「わかったよ!これを使えばいいんだろ!なんだってアタシばかりこんな目に遭うんだ」

「それは貴様がかえでを『開発』とやらをしたからだ。貴様の始めたことだ。貴様が責任を取れ」 

 そう言ってカウラはかなめを氷のような視線で見つめた。かなめは仕方なくそのまま自分用にモニターの仕様を自分のお気に入りの銃の画面に変更する。かえではその姿を確認すると笑みを浮かべながら自分の作業を続けた。

「こんな日常がこれからも続くのか……」

 まだ出勤してきていないアンの席を眺めながら、誠はそうつぶやいていた。

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