第200話 昨日の出来事
「昨日は早かったじゃねえか。あれか?かえでとリンのプレイには参加しなかったのか?エロいの大好きなオメエの事だからすっかり今頃はかえでの奴隷に成り下がってると思ってたのによ」
出勤途中のカウラの『スカイラインGTR』の車中で、かなめはアメリアにそう語りかけた。
「さすがにそんな二人の愛の営みの間に割り込むような無粋な真似はしないわよ。でも色々とそのプレイの内容とか、二人の開発具合とか聞いたわよ。色々ネタになったわ……これもみんなかなめちゃんのおかげね。かなめちゃんがかえでちゃんを開発しなかったらああはならなかった」
アメリアは笑顔でかなめにそう答えた。
「だから!アタシのせいじゃねえ!例の高名なSM作家が悪いんだ!」
相変わらずかなめは自分の責任では無いと必死に主張してアメリアをにらみつけた。
「開発具合って……何のことだ?」
ハンドルを切りながらカウラはアメリアに尋ねる。誠はエロゲの中の話で予想がついていたので黙っていた。アメリアも性的なことにはまるで無知なカウラに変なことを教え込むと自分もかなめと同じ立場になると思ったのか、カウラの質問には触れなかった。
「しかし、二人とも凄いのよ……ねえ、誠ちゃん!聞いてる?」
助手席からアメリアは後部座席で興奮状態の誠に語り掛けてきた。誠も一応男である、こんな話の一つもされれば正気を保つことは難しかった。
「いったい何のことでしょうか……」
必死になって平然を装いとぼける誠に向けてアメリアは振り返ってきた。
「誠ちゃん。ネタは上がってるのよ。誠ちゃんのエロゲのコレクションの中に調教物のシミュレーションが多いと言う傾向と、その中身のログを見せてもらったけど……まあ、さすがかえでちゃんの『許婚』だけあって凄いわね。たぶんかえでちゃんは誠ちゃんの理想の嫁よ」
アメリアはあっさりと誠の最低限カウラには隠しておきたかった秘密を暴露した。
「なっ……何を言ってるんですか!僕はそんな……確かにそう言うエロゲ持ってますけど、そんなにやりこんでないですよ」
「何照れちゃってまあ、かわいいんだから。かえでちゃんもリンちゃんも快楽、苦痛、恥辱、拡張ともにすべて開発度オールマックス。すべてのプレイに対応可能なド変態に仕上がってるわ。あれで日常生活が普通に送れるなんてすごい精神力。私は巻き込まれたら危ないと思って逃げてきたの」
嬉しそうに言うアメリアの言葉に誠はただひたすら絶句した。たしかにエロゲのキャラ達はその状態になると普通の日常生活を送れなくなる設定になっている。昨日、見た感じでは二人とも言葉は異常だが、行動性はかなめに対するそれは別としておかしなところは見えなかった。
「アメリア……フィクションの話はそれくらいにしろ。それに朝からそんな話をするんじゃねえ。耳が穢れる」
かなめは不愉快そうに隣でもじもじしている誠に目をやりつつそう言った。
「何よ、かえでちゃんを裸にして首輪をつけて夜道で犬の散歩プレイをしていた張本人が良く言うわね。かえでちゃんから聞いてるのよ。痛みと恥辱の開発はかなりかなめちゃん本人がやったって」
そう言ってアメリアは今度はかなめに目を向けた。
「下らねえ話をするんじゃねえ!あれはただのいたずらだ!」
「度が過ぎたいたずらだな。西園寺。貴様は犯罪者だ。島田と同類だ。いや、島田以上だ」
反論するかなめをカウラはそう切って捨てた。
「でもねえ……誠ちゃんもあそこまでかえでちゃんが変態だと……立派なご主人様になれるかしら?実際、誠ちゃんはそこまでドSなの?」
心配そうな顔を作るアメリアだが、その口元はニヤけていた。
「そんなわけないでしょ!僕はノーマルです!」
「あんなにゲームをやりこんでて?リアルであのゲームのヒロインキャラ並みに開発されてるのよ、かえでちゃん。実は理想だったって言いなさいよ。面倒なプレイ時間を省いていきなり最エロ画面からプレイが始まるのよ。楽しみでしょ?『許婚』として」
あくまで誠の変態性を指摘してくるアメリアに誠は辟易していた。
「しかし、そうなった原因はすべて西園寺なんだろ。西園寺。貴様はかえでに謝る必要がある。と言うか謝って済む問題ではない」
カウラはかえでが不幸だと信じているらしい。ただ、誠の見る限りかえでは楽しそうだった。
「アタシは悪くない。アイツにそう言う素質があったんだ。アイツのせいだ。自業自得だ。と言う訳で、神前。オメエが責任を取れ。テメエは『許婚』だ。結婚しろ、アイツと」
「西園寺さん!なんで僕に話題を振るんですか!なんでも他人のせいにするの西園寺さんの悪いところですよ!直してください!」
自分の責任をすべて誠に向けて来るかなめに誠は怒りを爆発させた。
「だって『許婚』だろ?アタシはお袋には逆らえねえ。あの『鬼』の決めたことに逆らうとさすがのアタシにも『死』が待ち受けている。そう言うわけだ。お前が全責任を取ればアタシの命は助かるんだ。ここは人助けだと思って結婚しろ」
かなめの非情な宣告が響く中、車は隊に到着した。
「誠ちゃん。『許婚』と仲良くね」
駐車場に到着するとアメリアはそう言って助手席を下りて座席を畳んで誠が降りれるようにした。
「どういう風にどこら辺まで仲良くすればいいんですか?」
誠はアメリアの無責任ぶりに怒りを感じながらそう答えた。
「それくらい自分で考えなさいよ。それとかなめちゃん。結構なお話を聞かせてくれる原因を作ってくれてありがとう。なんなら二人のプレイの動画を貰ったからかえでちゃんが何処まで開発されたか初期開発者として見てみる?」
「誰が見るか!そんなもの!」
誠に続けて車を降りたかなめはそう怒りに任せて叫んでいた。カウラは三人の会話の意味が分からず、不思議そうな表情を浮かべたまま運転席で固まっていた。