時効だよね
「卒業したから、もう時効だよね」
「あ、なにが?」
「ほら、二年のとき担任が急に代わったでしょ? あれ、あたしが、担任にいたずらされそうになったって、他の先生にチクったからなのよ」
「は、マジで?」
「マジだって。だから、本当に急に担任が女の先生に代わったでしょ。あたしが、もう男性教師が怖い、できれば、年の近い優しい女の先生がいいってごねたから、担任が代わったの」
「ふ~ん。そう・・・」
「なに、すごく怖い顔して」
「私もあんたに黙ってたことがあるんだけど、卒業したから話してもいいわよね。その担任って親が離婚して別れ別れになってた私の兄だったのよ」
「うそ?」
「あんたたちだって、時々、私と先生が何か似てるって茶化してたじゃない」
「そ、そうだっけ。で、でも、担任が女性に代わって良かったでしょ?」
「あんたのそのふざけた密告のおかげで、兄は学校にいられなくなって、自殺したけど?」
「自殺? そんなの聞いてない」
「そりゃ、学校がわざわざ、問題起こして退職した男のことなんかあんたに伝えるわけないでしょ。わたしは、肉親だから兄が学校を去った後のことも知ってるの。でも、よかった、誰が兄に濡れ衣を着せたのかわからなくて、卒業してからも、誰か探してたんだけど、自分から話してくれて。覚悟はできてるわよね、あんた」
「覚悟?」
「そりゃ、真面目に教師をやってたはずの兄を、犯罪者に仕立て上げ学校を追い出されたんですもの。親が離婚して苗字が変わったとはいえ、私にとっては大切な兄、その無念。晴らしたいと思ってもおかしくないでしょ」
「な、なによ、もう昔のことじゃない、それに、あんたブラコン? 気持ち悪いわね」
「悪いことをしたという後悔はないのね」
「当たり前じゃない、あんな奴、学校からいなくなってせいせいしたわよ」
「なら、私が、あんたを殺して、せいせいしたいという気持ちも分かってくれるわよね」