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置いて走り出す

彼女は俺を置いて、走り出していた。その廃業したホテルに肝試しで忍び込もうと言い出したのは彼女であり、正直、俺は興味なかったのだが、「男のくせにビビり」と笑われたので、男として見栄を張って、その廃墟に深夜、ふたりで忍び込んだのだ。そして、ホラー映画のお約束のように恐ろしい亡霊に襲われて、俺は廃墟の瓦礫に躓き、彼女は、そんな俺を見捨ててさっさと外に逃げ出して、俺だけ亡霊に殺された。遺体は見つからず、行方不明扱いになった。だが、俺には、確信があった、あの女のことだ、いなくなった俺のことなんか忘れて、すぐに新しい男を作って、ここに連れて来て、廃墟の写真を撮って、インスタ映えを狙うだろう。もしかしたら、俺が恨めしそうに化けて出て本物の心霊写真が撮れるのを期待するかもしれない。
それもいい、また彼女がここに来たら、喜んで彼女も俺たちの仲間に加えてあげよう。

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